研究課題/領域番号 |
18K04345
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
江種 伸之 和歌山大学, システム工学部, 教授 (00283961)
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研究分担者 |
田内 裕人 和歌山大学, システム工学部, 助教 (60780476)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 豪雨災害 / 土砂災害 / 7.18水害 / 有田川水害 / GIS / 地形立地解析 |
研究実績の概要 |
今年度の研究で対象とする7.18水害は1953年7月17日から18日にかけて発生し,特に被害が大きかった有田川流域での災害は有田川水害と呼ばれている.この水害は紀伊半島北部から南部まで広い範囲で起きているが,残されている記録は最も被害の大きかった有田川流域上流部の旧花園村が中心で,それ以外については数少ない.その一方,同年12月には林野庁により被害が大きかった旧花園村を中心に広範囲で空中写真が撮影されている.そこで,これら空中写真を収集して,できるだけ広範囲で斜面崩壊地を抽出し分析することで,7.18水害としての土砂災害の素因(主に地形)について考察した. GISを使った地形立地解析の結果,傾斜角は,最も崩壊が起きているのは35度以上40度未満であった.30度以上の崩壊地割合は有田川流域が77.1%,紀の川流域が65.5%であり,有田川流域の傾斜角が紀の川流域より若干大きい傾向にあった.傾斜方位は,有田川流域では南向きの崩壊地,紀の川流域では南西向きの崩壊地が最も多かった.どちらの流域も南東から南西向きの崩壊地が60%近く,北西から北東の崩壊地が10%程度であり,同じような南向き傾向が見られた.斜面形状の割合は,流域別に分類しても凸形尾根型,凹形谷型の2つの斜面形状が突出して崩壊が多くみられた.有田川流域では48.5%,紀の川流域では46.6%であった. 以上のことから,有田川流域では崩壊密度は大きいが崩壊地の素因の傾向は紀の川流域とあまり差が見られないという結果が出た.また,旧花園村エリアとの比較でも顕著な差は見られなかった.被害が大きく,降水量が多い旧花園村は崩壊地点が多いが,降水量が少ない北部の紀の川流域に行くにつれて次第に崩壊地点は減少している.このことからも7.18水害時に有田川流域で被害が特に大きかったのは,降雨の集中の影響が一番大きかったからだと推察される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
紀伊半島は,これまでに何度も豪雨による土砂災害に見舞われてきた.特に十津川水害(1889年)と7.18水害(1953年)は歴史的な災害として記録されており,2011年の紀伊半島大水害はこれらに匹敵する災害である.本研究ではこれら3つの水害を対象とし,土砂災害の再現性に注目して,紀伊半島で発生する土砂災害の特徴(素因・誘因など)を明らかにすることを目的とする. 研究初年度の2018年度は,7.18水害(有田川水害)を対象として研究を実施した.7.18水害は1953年7月17日から18日にかけて活発化した梅雨前線が和歌山県中・北部に停滞したことで発生し,特に被害が大きかった有田川流域での災害は有田川水害と呼ばれている.なお,1953年12月に林野庁は有田川上流域を中心に空中写真の撮影を行っており,災害直後の空中写真が現存している.そこで,2018年度の研究では,これら空中写真を収集して,できるだけ広範囲で斜面崩壊地(以下,崩壊地)を抽出し,地質や地形などの特徴を分析することで,7.18水害としての土砂災害の素因(主に地形)について考察し,明らかにした. 収集した空中写真をGISを使って分析した結果,7000箇所以上の崩壊地が見つかり,その特徴を明らかにすることができた.また,これにより有田川流域の旧花園村周辺で土砂災害の被害が特に大きかった理由も明らかにすることができた.この分析手法および結果は,2019年度以降に行う十津川水害や紀伊半島大水害に適用できるものであり,初年度の研究成果としてはおおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目(2019年度)は,紀伊半島大水害を対象として初年度と同様の研究を行い,3年目(2020年度)は十津川水害において初年度と同様の研究を行うと同時に,3つの水害を比較して,土砂災害の再現性に注目した分析を行う. (1)資料調査:十津川水害を対象に,過去の調査報告書や書籍,地質図や古地図などの紙媒体の資料を可能な限り収集し,土砂災害の概要や場所(位置情報)を確認するとともに,崩壊地の地形・地質などの地理的特徴を整理する. (2)現場調査:紀伊半島大水害に加えて,十津川水害と有田川水害で発生した土砂災害現場を調査する.紀伊半島大水害に関しては,これまでの研究の未調査地を中心に行う.有田川水害に関しては,災害直後に空中写真が撮影されているため崩壊地の把握が比較的容易である.そこで,空中写真を利用して,正確な位置を把握する.現場調査では,断層,破砕帯,流れ盤,地すべり地形などの地形・地質状況の確認,地形測量,ドローンによる空中写真撮影などを行う.ただし,十津川水害の場合には崩壊跡が明確に残っていない場所が多いと推察される.そこで,上記の資料調査で収集した報告書や書籍に記載されている情報を使い,可能な限り正確な地点で調査する. (3)GIS空間分析:資料調査や現場調査に基づいてデータベース化した地理情報を使い,災害毎に地形(傾斜角,方位など),地質(断層,流れ盤など),地盤(地下水位など),植生(植林地など)などの素因と誘因(降水量分布など)を分析する.また,新旧水害で共に崩壊が生じた特異地点を抽出し,その特徴を整理する.最終的には,新旧3つの歴史水害の情報を用いて,紀伊半島南部を形成する付加体および火成岩体で発生する土砂災害の特徴(素因と誘因)の観点からとりまとめる.
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