3年目の研究では,7.18水害と紀伊半島大水害に加えて十津川水害も対象にGISを使った地形立地解析を実施した.さらに,7.18水害と紀伊半島大水害で大規模な斜面崩壊が生じた現場で調査を継続した. 地形立地解析では,主に付加体の大規模斜面崩壊(5000m^2以上)を対象にして分析を行った.紀伊半島大水害においては,全崩壊地を対象とした場合には崩壊斜面は南向きの割合が高かったのに対し,付加体の大規模斜面崩壊に限ると北向きの崩壊斜面の割合が多くなっていた.十津川水害は120年以上前の災害のため,崩壊地の正確な情報はわからなかったが,文献に記載されているものの多くは付加体エリアの大規模な崩壊と推察される.この十津川水害の崩壊地においても,北向き斜面の崩壊の割合が比較的多くなっていた.7.18水害に関しては使用した崩壊直後の空中写真では北側が影になっており,抽出できた崩壊地はほぼ南向きのものであった.このため,7.18水害を除いた2つの水害で発生した付加体エリアの大規模斜面崩壊に共通する特徴になるが,崩壊斜面の方向が北向きが比較的多かったことである.これは,紀伊半島南部の付加体は北向きのスラストが発達しており,またその周辺には破砕帯が存在する.このような地質構造が影響して大規模斜面崩壊が多発したと推察される. 現地調査では,7.18水害と紀伊半島大水害の両方で崩壊した和歌山県有田川町横谷川の崩壊地を対象に,その素因と再崩壊の危険性を調べた.その結果,7.18水害では,チャート・珪質砂岩と頁岩優勢互層・頁岩の境界部付近で崩壊したことがわかった.また,紀伊半島大水害では7.18水害の崩壊土砂の崩れ残りが崩壊したことがわかった.斜面上には未だに大量の崩壊土砂が亀裂を生じるなど不安定な状態で残っており,今後の大雨により再崩壊する可能性がある.
|