研究課題/領域番号 |
18K04347
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
竹下 祐二 岡山大学, 環境生命科学研究科, 教授 (90188178)
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研究分担者 |
岩田 徹 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (10304338)
金 秉洙 岡山大学, 環境生命科学研究科, 助教 (90648601)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 河川堤防 / 浸透流 / 現地計測 / 深層学習 / ニューラルネットワーク / 土中水分量 / 降雨浸透 / 浸透特性値 |
研究実績の概要 |
当該年度に実施した研究成果は,出水時に堤防裏のり先付近からの漏水および基盤透水層からの漏水により堤内地での噴砂現象が発生している2箇所の一級河川堤防において,河川水位の変動,基盤透水層内の水位変動や堤防盛土層内での浸潤線の発生,そして,堤防裏のり面での降雨量やのり面表層領域での土中水分量の動態に対する長期間の計測を実施したことにある。対象とした河川堤防内での浸透挙動に対して,以下の研究を実施した。 (1)深層学習を用いたニューラルネットワークによる堤防内水位の予測方法を提案した.本法では,対象堤防において過去の出水時に計測された河川水位と堤防基礎地盤の水位変動状況をニューラルネットワークに学習させておき,学習済のニューラルネットワークを用いて,出水時に計測された河川水位と堤防基礎地盤の水位の変動状況により,任意時間経過後の堤防基礎地盤の水位の準リアルタイム予測を行った.提案する水位予測方法の有用性と妥当性は,2箇所の一級河川堤防において実際に計測された4回の出水時における計測水位を用いて検証した. (2)河川堤防裏のり面における降雨量と土中水分動態の長期計測に基づいて,堤防のり面における降雨浸透挙動の特徴や土中水分動態計測の有用性について考察した。降雨イベントにおいて計測された土中水分動態と任意の半減期を用いた実効雨量の関係を考察すれば,降雨による土中水分量の応答と実効雨量の時系列パターンが比較的よく一致しており,両者には高い相関(相関係数0.8~0.9程度)が認められた。土中水分動態を説明できる半減期を設定した実効雨量を用いることによって,堤体表層領域の土質状態の違いを考慮した降雨浸透特性を表現できると思われる。そのため,実効雨量は堤体内への降雨浸透量の評価指標として,時間雨量や連続雨量よりも有用であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,河川堤防の維持管理技術の向上のための浸透に対する弱部抽出と巡視点検方法の実用化提案であり,そのためには,まず,実河川堤防における浸透挙動の連続計測と計測事実に基づく考察は重要であると考えられる。そこで,当該年度(第2年度)では,2箇所の一級河川堤防の設置した浸透挙動計測システムにより,堤防内の水位および河川水位や土中水分量,降雨量などの連続計測を継続して実施できており,それらを用いて,以下の研究が進捗している。 (1)出水時の河川水位上昇や降雨浸透による堤防内の浸透挙動を定量的に把握し,対象堤防において過去の出水時に計測された河川水位と堤防基礎地盤の水位変動状況をニューラルネットワークに学習させておき,学習済のニューラルネットワークを用いて,出水時に計測された河川水位と堤防基礎地盤の水位の変動状況により,任意時間経過後の堤防基礎地盤の水位の準リアルタイムで予測できる堤防モデルの構築方法 (2)堤防のり面からの降雨浸透挙動を評価する上で必要な表層領域の不飽和浸透特性値の測定方法として,堤防のり面表層における土中水分動態を鉛直一次元 浸透流解析によりシミュレートし,不飽和浸透特性の関数モデルを同定する手法を用いて,フィールドスケールでの不飽和浸透特性値の評価方法 (3)堤防のり表層地盤での降雨浸透挙動の定量的評価手法として,土中水分量の鉛直分布の変動量および蒸発散量の計測により,土中水分貯留量および実効雨量を算出することで,河川堤防固有の降雨浸透挙動を評価する方法
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今後の研究の推進方策 |
河川堤防の維持管理技術の向上のための浸透に対する弱部抽出と巡視点検方法の実用化提案を行うために,今後の研究の推進方策として,以下の課題に取り組む予定である。 (1)堤防内で浸透挙動の計測を継続し,得られた大量の浸透挙動データを深層学習を用いたニューラルネットワークに学習させ,堤防内の浸透挙動の予測のためのAIシステムを開発する。 (2)出水時に漏水や細粒土砂の流出が懸念される堤防裏のり先ドレーン背面部分に単深度計測型土中水分計を設置し,計測された誘電率変動により,堤防層内での土粒子移動の測定を試み,堤防内における弱部抽出方法を検討する。 (3) 堤防のり面からの降雨浸透挙動を評価する上で重要なのり面表層領域の浸透特性値の測定方法として,地表面挿入設置型の浸潤円筒を用いた原位置定水位透水試験により現場飽和透水係数を測定する。また,浸潤円筒内の経過時間あたりの水位低下量を自記水位計により簡便に測定を行う原位置変水位透水試験方法を提案し,フィールドスケールでの浸透特性値の迅速な試験方法を開発する。 (4)昨年度設置した浸透挙動計測システムに簡易型河川監視カメラを増設し,堤防内の浸透挙動の情報に加えて,河川状況画像を確認することで,出水時に適切な避難判断情報を提供するできるようにするために,ユビキタスコンピューティングの適用を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,当該年度に構築した浸透挙動の計測システムを遠隔モニタリングシステムに改良する作業において,その改良方法の検討とセンサーの選定に時間を要したため,予定していた物品費の執行が当該年度内に実施できなかったことによる。 翌年度分として請求した助成金と合わせ,新たな遠隔モニタリングシステムを構築し,ユビキタスコンピューティングによる堤防内の浸透挙動のリアルタイムモニタリングと迅速な計測情報発信のためのシステム構築を図る予定である。
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