研究実績の概要 |
本研究では,モデル斜面を作成し,降雨装置を用いて降雨条件下での拡翼アンカー,鉄筋挿入工,無対策モデル斜面の室内モデル実験を実施した.また、含水比,締固め度、埋設深さごとの引抜き抵抗力を測定する一連の実験を実施し,斜面の安全率や体積含水率等の指標から拡翼アンカーの有用性を検証した. 主な研究成果として,まず,アンカーの補強効果について述べる.無対策モデル斜面は斜面崩壊に至るまで10分を要した.拡翼アンカーで補強したモデル斜面は,降雨開始から44分後に斜面崩壊が発生したが一部の崩壊に留まり全壊には至らなかった.鉄筋挿入工で補強したモデル斜面は,降雨開始から44分後に完全に斜面崩壊した.拡翼アンカーでは,鉄筋挿入工に比べて,基盤層と表層とを結合させる力が強く,そのことが斜面崩壊時間の増大をもたらしたと推察された.また,モデル斜面内に設置した土壌水分計から,拡翼アンカーで補強したモデル斜面において最大体積含水率に達した状態から破壊まで50分持ちこたえたことが判明した.以上より,拡翼アンカーの有用性が明確になった. 次に、拡翼アンカーの引き抜き抵抗に及ぼす埋設深さ,含水比,締固め度の影響を一連の室内モデル試験により明らかにした.その結果,埋設深さ,締固め度を増加させると引抜き抵抗力は増加し,また,含水比が増加するにつれて引抜き抵抗力は減少することが分かった.ただ,実験に供した土試料(真砂土)では含水比が20%近くになると引抜き抵抗力はかなり減少し,それ以上増やしても引抜き抵抗力はほとんど変化しないことが分かった. その他,斜面崩壊に及ぼす拡翼アンカーの影響について,安全率に関する定量的評価を行った.その結果,拡翼アンカーによる引抜き抵抗力が斜面全体の安全率に及ぼす影響を定量的に表現できることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の当初の予定では,平成30年度,令和元年度までに①拡翼部の最適構造決定,②拡翼アンカーの引き抜き抵抗のモデル化を成し遂げ,さらに③引き抜き抵抗に及ぼす降雨条件および振動条件の影響把握に取り掛かることになっていた.①および②については既に研究成果を公表し,③の降雨条件下での拡翼アンカーの効果検証も部分的に達成できているため,全体としてはおおむね予定通り順調に進行していると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は上の【現在の進捗状況】の欄で述べた③引き抜き抵抗に及ぼす降雨条件および振動条件の影響把握についてさらに研究を進める予定である. まず,降雨条件下での効果については、引き続きモデル斜面の崩壊試験を実施し,拡翼アンカーおよび従来型アンカー(鉄筋挿入工)の効果を定量的に検証する.同時に含水比,相対密度,埋設深さを変更した拡翼アンカーおよび従来型アンカーの引き抜き抵抗測定を実施し,これらを考慮した斜面全体の安全率の定式化を図る.最終的に実験結果との比較を通して,拡翼アンカーの効果を定量的に表現する. 次に,振動条件に関しても振動台を用いたモデル斜面の崩壊実験を実施し,斜面崩壊に及ぼす拡翼アンカーおよび従来型アンカーの効果を検証する.同時に斜面全体の振動条件下での安全率に及ぼす拡翼アンカーの効果を定量的に表現し,実験結果との比較を通してその妥当性を検証する.
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