2020年度は本研究計画の最終年度であり、過去2年間で開発した基礎ツール(DAD関係を保存した多数の豪雨シナリオの模擬発生手法と、分布型流出解析に基づく水系内任意地点での洪水リスクの算定手法)を駆使することで、実流域で実際に洪水リスク分析を実施した。 具体的には、大和川を覆う空間スケールで作成されたモデル降雨を、その支川である石川流域に適用し、それぞれのモデル降雨の違いがもたらす相対的なリスク評価を行った。大和川流域スケールでの面積平均降雨量が同じであっても、時空間分布の違いによって石川流域に強い雨域がかかるようなケースが存在し、大きな流量を発生させることが定量的に示された。すなわち、流域全体に対しては同じ確率規模の降雨であっても、その時空間分布を考えると、特に視線流域における最大流量は幅広い値となることが確認された。 また、こうした解析を様々な確率規模の降雨について行った結果、再現期間が短いモデル降雨でも、それより大きな再現期間を持つ豪雨群によるピーク流量の中央値を上回る流量をもたらす場合があること、再現期間の長いモデル降雨でも、それより小さい再現期間のシナリオの中央値を下回る流量となる場合があることが示された。これにより、大和川流域の空間スケールで見た再現期間と、その支川である石川の空間スケールで見た再現期間が必ずしも対応しないということが示された。したがって、豪雨による被害が想定される場合には、対象とする地点の集水域に合わせて情報を提供することが重要であるという本研究の着想時点で設定した仮説が正しいことが示された。この結果は、集水域単位の観測や予測情報を得にくい中・上流部や中小河川の流域では、本川の空間スケールの情報にのみ頼った意思決定を行うと、避難行動や避難指示の空振りや見逃しが起こり得るということを認識し対応する必要があることを示している
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