冬期に路面へと散布された塩化ナトリウムは,降雨や雪融けによって地盤の水分が増加すれば,浸透水とともに内部・下方へと移動して地下水や表流水中へと流出する.塩化ナトリウムの地盤内での滞留時間は地盤の透水係数や飽和度に関係する.したがって,地盤内部での物質の滞留時間を把握するに際しては,飽和・不飽和浸透流と物質移動とを相互に関連付けたモデル化を行う必要がある.本研究では,研究代表者のこれまでの水・底泥境界面での物質移動,および Hyporheic exchangeに関する基礎研究を拡張して地盤表面から内部での飽和・不飽和浸透流と物質移動,および物質変換過程を モデル化するとともに,降水の量や期間によって地盤内部の流れ場,および塩化ナトリウムの挙動を再現するための手法について検討した. 粒径が均一な珪砂で構成された地盤を対象として,実験とシミュレーションによる検討を行った.すなわち,Darcy則とvan Genuchtenモデルとを対応させることにより,モデルが実験結果を良好に再現することを確かめた.次に,珪砂に粘土であるカオリナイトが混入した場合を想定して同様のシミュレーションと実験による検討を行い,カオリナイトの混入率が5%未満であれば,降水により地盤内に生起する浸透流と物質移動は珪砂のそれと殆ど差異がないことを確かめた.我が国において広く分布する真砂土,および黒ぼく土について,同様に実験とシミュレーションによる検討を行った.地盤の水分保持曲線に関して,van Genuchtenモデルが適用可能であることを明らかにした.降水によって地盤内部に生起する浸透流については,Darcy則によって再現可能であるが,地盤内部での塩分等の物質移動には,流れのような物理過程のみならず,地盤が含有する鉄やアルミニウム等の金属に起因する化学過程が大きく影響することを明らかにした.
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