本研究は,認知科学的な基盤と,認知科学ではほとんど取り扱わない複雑な現象である景観現象とを,より良いまちづくりのために融合させ工学的な成果を得ようとするいわば学際研究である.そのため,実践的な景観まちづくりを展開しつつ,街並み景観認識研究の蓄積が豊富な研究代表者(平野)が全体を統括し,その一方で,認知科学分野の中でも,応用的な研究実績を積み上げて来ている気鋭の研究分担者(和田)が認知科学研究の蓄積に基づき,無意識的な景観認知特性を解明するための検証方法,実験計画,解析方法などを分担する形で研究を行っている. 無意識的な景観認知を「干渉」現象からみるべく,生活景を「反復」によって慣れ親しんだ刺激として捉えることで,その反復回数(多ければ多いほど,生活景のそれに近い)とBar-orientationtaskによる干渉効果(慣れ親しめば親しむほど干渉が小さくなるとの仮定)で実験を行った.その結果,反復回数が増えるにつれて,わずかに干渉が減少する傾向は見て取れたが,統計的な有意性は必ずしも高く無い状況であったことから,慣れ親しんだ景観は「変化」に気付きやすいという当初着目した現象に立ち返り,生活景は変化による評価が向上する可能性に着目した分析を深めた. その結果,住宅地景観において,必ずしも高い評価ではない景観においても,特に「表出」と呼ばれる鉢植えといった住民による意識的な景観演出物の「変化」によって,「風趣感」を高め全体的な評価も高めていくことが発見された.これは,景観構成要素の良否だけでなく,潜在的に「変化」まで捉えて,住宅地の景観が評価されていることを意味し,住宅地におけるまちづくりにヒントを与える成果である.
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