研究課題/領域番号 |
18K04382
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
青木 俊明 東北大学, 国際文化研究科, 准教授 (60302072)
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研究分担者 |
鈴木 温 名城大学, 理工学部, 教授 (00356073)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高齢地区 / 限界集落 / QOL / 居住意思決定 / ソーシャル・キャピタル |
研究実績の概要 |
まず、先行研究に基づいてQOLの構成要因を整理した。さらに、当初予定していた「平成27年度 過疎地域等条件不利地域における集落の現況把握調査報告書」の集落データの利用許可を得られなかったことから、独自に限界集落地区のデータを収集することになった。そこで、まず、高齢化地区を潜在的な限界集落地区として分析対象とすることとした。その際、平成27年国勢調査報告において、65歳以上人口の割合が50%以上を占める宮城県内の地区を高齢化地区として調査対象とした。このとき、被災市町村と老健施設や介護施設等のみからなる地区を除外した結果、39地区が調査対象となった。次に、高齢化率、人口流動性、DID地区の有無、標高、最寄駅までの距離、本庁までの距離を用いてクラスター分析を行った。その結果、人口流動性が高く,相対的に高齢化率が低く、地域の中心近くに位置し、交通手段の利用が相対的に便利な「都市郊外地区」と、高齢化率が高く、人口流動性も低く、地域の中心から離れており、標高の高い場所にある「中山間地区」の2つに整理された。この2地区に該当する全集落の全世帯に質問紙調査を行った(郵送配布が不可能な2地区を除外)。 調査票は,2018 年11 月19 日から11月29 日に郵送で配布し、郵送で回収した。都市郊外では63.3%,中山間地区では71.9%の回収率だった。 共分散構造分析を行ったところ、都市郊外地区と中山間地区では居住意思決定構造が異なることが示唆された。都市郊外地区では、居住意思決定要因は居住満足度と文化的規範だったが、中山間地区では地域愛着のみだった。この結果は、限界集落地区での居住意思決定が、既存の効用規定因とは異なる要因によって行われている可能性を示唆している。従って、限界集落地区のQOL維持を考えるためには、既存の居住理論とは異なる視点から考える必要があると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2018年度は、先行文献を用いた居住効用の規定因の整理、限界集落の地域特性の把握、地域特性と限界状況(高齢化状況)の関係分析を行う予定だった。しかしながら、宮城県内での調査になったことから、既にこれらは終了している。さらに、調査対象地が少なくなったため、2019年度調査で予定していた残住理由や転居可能性についても質問紙調査でデータを収集している。したがって、この分だけ研究が予定より早く進行している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、得られているデータに対して多角的な分析を進める。また、今回の調査では、「限界集落の調査・研究では、土地勘をもたない地域を対象とすることは難しい」ということが経験的に理解できた。すなわち、潜在的限界集落である高齢化地区は、統計データ上は高齢化地区に該当しているとしても、実際には「高齢者介護施設のみからなる地区」が一定の割合で存在しており、日本全国の町丁目データにおいて、これを一つ一つチェックすることは極めて難しいと言える。そのため、全国を対象に高齢化地区の居住意思決定を検討することを不可能と言わざるを得ない。その一方で、宮城県の高齢化地区を対象としながら、居住意思決定の理解を深めることはできる。そこで、意思決定メカニズムに焦点を当てた理論の構築とデータによる検証を行う、。その上で、それを高齢化地区に適用し、潜在的限界集落の居住意思決定メカニズムを解明する。さらに、当初の予定通り、2020年度には、居住意思決定モデルを用いて大都市部の高齢化地区における居住意思決定構造を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
最大の理由として、既存の全国調査のデ-タベースの利用が叶わず、データ取得を全て自前で行うことになったため、マンパワーの制約を考慮し、調査対象地を宮城県のみとしたことが挙げられる。これにより、調査票の配布数が削減されたため、費用が節約された。次年度は、居住意思決定の認知的側面に着目した調査を行い、居住意思決定メカニズムを精緻に検討する。繰越金と次年度予算はそのために使用する予定である。さらに、できるだけ前倒しで調査を行い、2020年度実施予定の大都市部における潜在的限界集落を対象とした調査も実施したいと考えている。
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