都市鉄道整備によるアクセシビリティの改善がもたらす企業の生産性向上効果をミクロ及びマクロの両面から計測する手法を開発し,東京圏を対象に実証分析を行った. (1)ミクロな視点からの分析(平成30年度等):東京圏で近年整備された鉄道路線を対象に,多時点の企業信用調査データベース(東京商工リサーチの「CD-Eyes」(企業検索CD))を用いて,開業に伴い新設された駅の周辺に立地した企業を特定し,業種や規模,業績,移転の有無などを把握した.その上で実証分析手法の一つである差の差分析法(Difference in Differences)を用いて,鉄道整備によるアクセシビリティの改善がこれらの指標の変化に及ぼす影響の因果効果を推定した. (2)マクロな視点からの分析(令和元年度):「平成28年経済センサス」データを用いて産業別従業人口の空間分布特性を明らかにするとともに,駅周辺への従業人口の集積状況を分析した.また,市区町村毎の交通アクセシビリティ指標と労働生産性の関係について回帰分析を行った.その結果,情報通信業や卸売業・小売業など3次産業を中心に駅周辺への高い集積が見られること,卸売業・小売業,不動産業・物品賃貸業,サービス産業(その他)などの産業で,交通アクセシビリティの改善が労働生産性の向上に寄与している可能性があることを明らかにした. (3)在宅勤務拡大による生産性及び鉄道利用への影響分析(令和2年度):2020年3月以降の新型コロナウイルス感染拡大に伴う在宅勤務の普及は,ワークスタイルの変化と鉄道の利用機会の大幅な減少という大きな影響を及ぼした.本研究でもその実態を探るべく,東京都心部への通勤者を対象にWeb方式でのアンケート調査を実施し,在宅勤務の頻度や出社と比べた場合の業務生産性の変化,在宅勤務の継続希望の有無,鉄道の利用状況や混雑などのサービスに対する意識を把握した.
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