本研究は装着時の心理的・肉体的負荷が小さい眼鏡型視線計測装置等によって自動的に収集される時系列データを用いて,歩行者の心理的・身体的状態から「戸惑い」「順調」「集中」といった活動状態を精度良く自動検出するとともに,視線計測結果を活用してその原因を特定する技術の開発を目的とする.本研究により,外国人を含む来訪者や障害を持った方の円滑・安全な移動や活動を妨げる原因を簡便に特定することが可能となる. 令和2(2020)年度は,新型コロナウィルス感染症の流行により当初予定していた本実験を実施することができなかった.そのため,2019年度に生活道路単路部での敷地外予備実験で得られた視野映像と視線計測データを解析した.その結果得られた主な成果は以下の4点である. (1)「左側歩行時に右後方から追い抜かされる場合」よりも「右側歩行時に左後方から自動車に追いされる場合」に危険と感じる歩行者が多いこと,(2)歩行者は追い越される直前からの安全確認行動の結果,危険性を認知した場合に危険回避の行動を取っていること,(3)免許の有無で注意機能・サッカードの大きさ・注視行動に違いがみられること,(4)免許保有者の方が空間的注意・選択的注意が働いていること. 以上の結果と2018年度および2019年度に得られた結果を総括すれば,本研究では歩行者の個人属性が注視行動に与える影響について検討し,特に,道路環境に対する慣れ不慣れと運転免許の保有有無が注視行動に有意な影響を持つことを明らかにし,行動文脈を考慮した活動状態の把握に向けた新たな視座を得ることができた. ただし,新型コロナウィルス感染症の影響により当初想定した実験を実施することができなかったため,活動状態に至る原因の特定については不十分な結果であった.この点については2021年度から実施する別の研究課題とも関連するところであり,引き続き取り組む予定である.
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