研究課題/領域番号 |
18K04402
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研究機関 | 木更津工業高等専門学校 |
研究代表者 |
武長 玄次郎 木更津工業高等専門学校, 人文学系, 准教授 (00322991)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アンケート調査 / 人物評価 |
研究実績の概要 |
平成30年8月、連携研究者の上村繁樹教授(木更津高専)と共に嘉南農田水利会を訪問し、職員へのアンケート調査を実施した。63名に対するアンケート用紙を後に回収し、これだけの人数の八田與一とその妻外代樹に対する感想を聞くことができた。八田與一が遺した水利システムを直接運用するとともに、八田夫婦の家屋、銅像、碑の再建や保存、関係史料の収集につとめている組織の関係者へのアンケートであるため、台湾一般の人々とは違ったユニークな感想や見方をしていることがわかった。教科書に掲載されている、水利システムの貢献者としての評価以外に、與一の優しさや思いやりに言及している回答が見られる。これは八田與一のことを直接知る人が伝えた可能性が高い。與一自身は厳しい人であったとも伝えられるが、アンケートの回答には出てこず、そのこと自体、現代に伝わる八田の人物像の実像を示している。外代樹に対しては、一般の人よりもずっと性格面での高い評価が目立ち、典型的な日本夫人、素晴らしい人と評価されている。 嘉南水利システム建設時の組織内文書や報道などの史料が大量に所属されている台湾大学図書館を度々訪れ、史料のコピーを行っている。今まで知られていない八田に関するアメリカ土木界での高い評価、有能な技術者としての八田與一の姿も事業が進んでいた当時の1920年代、新聞等で伝えられてきた。また、八田以外の嘉南水利システムの関係者、特に本来の事業責任者、枝徳二は台湾で多く報道されてきたことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在水利システムの運営を行っている嘉南農田水利会の関係者に対する八田與一と妻外代樹に冠するアンケート調査を行い、ユニークな結果を出すことが出来た。嘉南水利システムの中心として有名な烏山頭ダムだけでなく、八田與一が計画しながら建設には至らなかった曽文ダムを訪問して史料収集を行い、水利システム全体の調査を進めている。主に台湾大学図書館での史料調査は成果が大きい。八田與一は事業を行っていた当時、今まで著作などで知られていたよりも多くの人物報道がされていた。八田と水利システム建設で意見を戦わせたアメリカの土木学者ジャスティンの招聘についても、新聞報道から総督府が田賀土木課長をアメリカに派遣していたことがわかり、ジャスティンが事業全体の見直しを依頼されていたと考える根拠が判明した。台湾南部の有力新聞、台南新報の報道から、アメリカの土木雑誌アースムーバーに八田與一と嘉南水利システム事業が紹介され、アメリカ土木界に事業自体と八田の名が知られていたことが明らかになった。本来の水利事業の責任者、枝徳二は現在ではほとんど知る人はいないが、元の台南州知事として現地住民には八田よりもずっと影響力や知名度は高かった事情が、やはり新聞報道から明らかになった。 台南新報、台湾日日新報など台湾在住の日本人が多く読んでいた新聞では、八田よりも枝の寄稿や記事がはるかに多く、寄稿内容は水利事業だけでなく教育、文化、政治経済等広い範囲にわたっており、枝の意見を求める層は多かったことが伺える。嘉南水利システムの経済面の分析に関する調査は、これから行う見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
嘉南水利事業の行われていた当時における、新聞雑誌等報道の分析をさらに進める。八田與一、事業責任者の枝徳ニや八田以外の技術者に対する報道がいかに行われたかは、水利システム事業関係者の人物像構築に不可欠な作業である。特に地元台南のメディアは、この問題への関心が深く、まだ検討していない史料から知られざる史実を発掘出来る可能性が大きい。台湾訪問者の著作も参考になる。嘉南水利システムは台湾を代表する大土木事業であり、台湾を訪れた著名人も、事業に対し八田や枝といった事業の中心人物を含め関心を寄せていた事例が多く、まだ検討できていない著作から、事業関係者について明らかになることは多いと思われる。嘉南農田水利会での関係者への取材、インタビュー、調査はこれからも引き続き進める。水利システムがもたらした経済的な影響も含め、嘉南水利システムについて嘉南農田水利会には、十分に分析されていない史料が多く残っている。水利システムの中心人物は八田與一をはじめ日本人であり、その子孫は日本に住んでおり独自の史料を持っていると見られる。嘉南農田水利会が毎年主催する八田與一慰霊祭等で、そうした人々に接触をはかることは可能である。また、これまで史料収集は日本国内および台湾の図書館・関係施設で行うことを想定してきたが、八田や嘉南水利事業とアメリカ土木界との関係をさらに考究するためには、アメリカでの調査も考慮すべきかもしれない。
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費・謝金の金額がもっと多くなることを予想していたが、これが思ったよりも小額にとどまった。旅費は調査に必要金額を支出した結果、項目中金額が最も多くなった。今回の反省を踏まえ、今後は使用額の調整と検討を進めていきたい。
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