研究課題/領域番号 |
18K04406
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
三木 理 金沢大学, 機械工学系, 教授 (70373777)
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研究分担者 |
長谷川 浩 金沢大学, 物質化学系, 教授 (90253335)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 環境影響評価 / 海産生物 / 海藻 / アカモク / バイオアッセイ / 排水 / 生長阻害 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究分担者、研究協力者との共同研究体制の下「アカモク受精卵を用いた沿岸海域環境影響評価手法の開発」における「標準プロトコルの確立」及び「化学物質を用いたアカモク受精卵の感受性評価」について、室内培養実験によって検討し、以下の知見を得た。 1)標準プロトコルの確立:排水が淡水である場合、海産性生物は塩分低下の影響を受けやすい。アカモク受精卵の場合、塩分が20‰程度まで低下すると生長阻害が生じた。この対策として、培養に用いた海水を蒸発させた塩分を用い、淡水の塩分を海水に近い32‰程度に調整することにより、塩分低下による生長阻害への影響を抑制できる見通しを得た。 2)化学物質を用いたアカモク受精卵の感受性評価:排水に含まれることが多いアンモニア性窒素を化学物質に選定した。アンモニア性窒素は低濃度の場合、海藻の栄養源として作用するが、濃度が上昇すると生長を阻害し、また、この影響度は海藻の種類によって異なることが知見されている。また排水のpHが上昇すると毒性の強い非イオアンモニアの割合が上昇し、アンモニア性窒素の毒性が強まると考えられる。そこで、培養海水のpHとアンモニア性窒素濃度を変動させ、アカモク受精卵に対する影響を評価した。この結果、pHが7-9の範囲ではアンモニア性窒素濃度が2.5mg/L以下の場合、生長速度に明確な差異は生じなかった。一方、アンモニア性窒素濃度が5mg/Lを超えるといずれのpHでも生長速度がが低下した。特にpHが9ではアンモニア性窒素濃度の増大に伴い死滅率が急激に上昇し、20mg/Lで全個体が死滅した。一方、pHが7,8では、アンモニア性窒素濃度が20mg/Lでも死滅率は50%以下であった。これらの結果からpHの上昇とアンモニア性窒素濃度の上昇は、アカモク受精卵の生長阻害に相乗して作用すると考えられ、pHについても留意しておく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海産生物を用いて淡水系の排水の毒性を評価する際には、塩分低下による海産生物への影響を定量的に把握するとともに塩分低下に対する対策手段を準備する必要がある。今回の検討の結果、アカモク受精卵は塩分低下に比較的耐性があり、塩分が20‰程度までは顕著な生長阻害が生じないことを明らかにした。また、培養海水を蒸発させ、得られた塩分を用いて排水の塩分を海水程度に調整することにより、塩分低下による生長阻害への影響を低下できることを明らかにした。さらに、化学物質としてアンモニア性窒素を選定し、アンモニア性窒素の毒性がpHの影響を強く受けると考えられるため、pHとアンモニア性窒素濃度を変動させて評価した。この結果、pHが7-9でアンモニア性窒素濃度が2.5mg/L以下の場合には、アカモク受精卵への生長阻害が小さいことが明らかになった。一方、アンモニア性窒素濃度が5mg/Lを超えるといずれのpHでも生長速度が有意に低下し、また、アンモニア性窒素による阻害がpHの上昇とともに強まった。これらの結果から、pHおよびアンモニア性窒素に対するアカモク受精卵の感受性をほぼ把握できた。 このように当初の計画に基づいて研究はおおむね順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、「化学物質を用いたアカモク受精卵の感受性評価」を継続する。アンモニア性窒素濃度によるアカモク受精卵への影響については、pHとの複合影響について、実験を継続しデータ数を増やすことによって実験結果を検証するとともに、塩分との相互影響についても新たに検討する。さらに、金属成分として銅、亜鉛などを選択し、金属成分によるアカモク受精卵への影響についても検討を開始する。
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