研究課題
本研究では,山岳域を含め,東アジア各地に設置された偏光光散乱式粒子数計測器(以下偏光OPC)の観測ネットワークで得られたデータから,機械学習アルゴリズムを用いて,空間的時間的にスケールの大きな越境輸送微粒子のイベントの判定および予測することを目的にしている.本年度は,1)信号処理基板が故障し測定が停止していた木曽駒ヶ岳千畳敷に設置された偏光OPCの測定を再開した,2)偏光OPC観測ネットワークのデータから空間的時間的にスケールの大きい越境輸送イベントを機械学習アルゴリズムにより抽出する方法を検討した,機械学習アルゴリズムの開発用データとして,2016年3月7日から2017年5月31日までの甲府における偏光OPC測定結果から,学習用データセット88760組,テスト用データセット40000組を用意し,回帰モデルとしてLassoを使用した.濃度予測に関しては,甲府における鉱物粒子の6時間後の予測で濃度の増減の傾向がよく一致するような結果を得た.しかし,突発的な濃度増加を予測しきれてないことから,時間スケールが5分よりある程度長い現象でなければ,予測が困難であった.また,予測時間を12時間後にした場合には,予測精度が低下したため,現段階では12時間後の予測は難しいことがわかった.越境イベントの抽出に関しては,空間的時間的スケールの大きなイベントはとらえていることがわかった.また,データセットを作成する際に濃度の増加がそれほど高くなかったため,越境輸送と判定しなかった期間においても,輸送イベントと判定される例が見られた.これは人間が判断できなかった期間を機械学習により抽出できたと考えることもできるが,過大評価したとも考えられ,他の観測データと合わせ,より注意深く確認する必要がある.
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要で示したとおり,機械学習アルゴリズムの開発に関しては順調に計画を進めている.しかし,当初の予定では,新規に偏光OPCを富士山太郎坊ブルドーザー基地に設置する計画であったが,木曽駒ヶ岳千畳敷に設置した偏光OPCにの信号処理基板に不具合が発生した.測定データの優先度を検討し,標高が高く自由対流圏の気塊を捉える可能性が高いことやこれまで測定を続けてきており,データの連続性という観点から,新たに購入した偏光OPCの信号処理基板を木曽駒ケ岳に設置していた偏光OPCに組み込み,測定を再開させた.各観測地点の測定データを自動的にリアルタイムで収集し,グラフ化しwebに表示するシステムは安定して動作している.
昨年度,設置することができなかった富士山太郎坊ブルドーザー基地に偏光OPCを新たに設置する予定である.この地点に設置予定であった新規購入した偏光OPCの信号処理基板は,木曽駒ケ岳の機器に転用したため,不具合のあった信号処理基板の修理を実施する.太郎坊ブルドーザー基地に物置を据え付け,内部に偏光OPCを設置する.データ収録用のPCを,本学の他の研究グループが太郎坊に設置した観測コンテナ内部のインターネットルータに接続し,リアルタイムにデータ転送できるように設定する.昨年度,開発した機械学習アルゴリズムでは,複数地点のデータを単純に並べて1次元化したデータセットを用いており,地点間の同期性が学習に反映されていない可能性が高い.そのため,時系列データを地点ごとに並べた2次元データを作成し,畳み込みニューラルネットワークを使用して学習を行う.さらには,風速や風向といった気象データを解析対象に加えることも検討し,予測精度の向上を図る予定である.
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Atmospheric Chemistry and Physics
巻: 19 ページ: 219-232
10.5194/acp-19-219-2019
巻: 18 ページ: 18203-18217
10.5194/acp-18-18203-2018
http://popcarn.yamanashi.ac.jp/