研究課題/領域番号 |
18K04409
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
相馬 明郎 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (80601096)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 炭素貯留 / 炭素隔離 / 生態系モデル / ブルーカーボン / 炭酸平衡系 / 浮遊系 / 底生系 / 沿岸海域 |
研究実績の概要 |
気候変動を緩和する機能として,浅海域による炭素の貯留・隔離機能:ブルーカーボンが期待されている.しかし,都市沿岸域のブルーカーボンは定量的にも定性的にも未解明な部分が多い.この未知なる機能の解明には,河口域-湾央域,大気-海水-堆積物を含めた広範な領域に渡って織り成される炭素動態と,それを駆動する生物・化学・物理過程の相互作用:生態系ネットワークを捉えることが有効である。本研究では「大気-海洋間のCO2ガス交換(海洋への炭素吸収)」→「吸収した溶存無機炭素の生物生産による有機物・炭酸カルシウムへの固定(炭素固定)」→「固定化された炭素の堆積物への埋没(炭素貯留)」という,一連の炭素の吸収・固定・貯留プロセスに関連する生物・化学・物理過程とその相互作用を網羅的に組込んだブルーカーボン生態系モデル(底生系-浮遊系結合モデル)を開発し,炭素吸収・固定・貯留の鍵となるメカニズムの推定,評価を行い,都市沿岸域の持つ気候変動緩和機能の理解と評価手法の基礎を確立することを目的としている.当該年度は,昨年度に引き続き,本研究課題で開発し・検証を行ったブルーカーボン生態系モデルを活用し,炭素吸収,固定,貯留能の支配的要因の抽出を試みた.炭素吸収・固定・貯留の支配的要因の分析では,生物化学過程による炭素,アルカリニティ,pH, pCO2の変化を評価し,これらが大気ー海洋間の炭素吸収フラックスに与える効果を解析・分析した.解析の結果,浮遊系表層のみならず,堆積物における生物・化学過程が大きな寄与を齎している可能性が見出された.本結果は国際会議にて発表した.さらに,本モデルに,当初予定ではなかった酸性化に伴う海洋生物のダメージの影響もモデル化し組込んだ.本成果は国内学会にて発表した.さらに,本研究で培った浮遊系ー底生系間の食物連鎖のモデル化を適用した生態系モデル化の成果を国際論文にて発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初目標としていた,一昨年度までに(1)ブルーカーボン生態系モデルの開発・適用・検証を概ね終えており.また,検証を終えたモデルを活用し,(2)炭素吸収,固定,貯留の3機能の時空間分布の解析,(3)3機能に対する物理,生物,化学過程の寄与の感度解析についても,解析結果が得られ,その解釈が進みつつある.これら進捗は当初計画通りである.また,昨年度はブルーカーボン生態系モデルの計算スキームを高度化し,計算速度の向上,数値誤差の低減を図った.さらに,本研究から得られた炭酸化学平衡のモデル化は亜熱帯海域生態系のブルーカーボン評価にも活用した.加えて,当初計画になかった海洋生物の酸性化影響までもモデルに組込むことで,本モデルによる評価可能項目が,従来の炭素吸収・固定・貯留機能のみならず,酸性化による酸性化への影響にまで拡張されつつある.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに引き続き,ブルーカーボン生態系モデルを活用し,都市沿岸域(東京湾)での炭素吸収,固定,貯留の3機能を構成する生物・化学フラックスに関する感度解析を実施し,3機能の支配的要因を定量的に明らかにする.特に生物・化学過程を底生系,浮遊系それぞれに分けて解析し,炭素吸収,固定,貯留に与える効果は,感度解析をさらに進めることで新たな知見が得られることが期待される.また,東京湾は依然,貧酸素化が深刻な問題となっているが,この貧酸素化が,炭素吸収,固定,貯留に与える影響についても,明らかにすることを目指している.なお,感度解析の際は,様々な時間スケール(日変化,季節変化,経年変化)から解析することにも焦点をあてる.
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次年度使用額が生じた理由 |
Covid19の影響により、参加を予定していた国際会議・シンポジウムがon line開催となった.また,データ解析・分析を外注せず,学生教育にて実施した.今後は,データ解析補助,国際会議,論文投稿に予算を活用する予定である.
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