研究課題/領域番号 |
18K04410
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
大塚 佳臣 東洋大学, 総合情報学部, 教授 (50584364)
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研究分担者 |
見島 伊織 埼玉県環境科学国際センター, 水環境担当, 専門研究員 (00411231)
本城 慶多 埼玉県環境科学国際センター, 温暖化対策担当, 主任 (30770622)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 下水高度処理 / ライフサイクルアセスメント / コンジョイント分析 / 協力ゲーム理論 / 合意形成 / プラーヌンクスツェレ |
研究実績の概要 |
本研究では、(1)流域全体での高度処理システムの最適化ならびに(2)高度処理がもたらす流域内自治体間の費用と便益の不均衡解消を同時に実現するための政策決定手法と、(3)政策に関する合意形成を実現できる手法を開発し、中川流域をモデルとして、それらを実践することを目的とし、2019年度は以下の成果を得た。 (1)高度処理システムの最適化の検討:埼玉県内にある下水処理場に加え、東京都の2つの下水処理場を対象とした環境負荷の解析を行い、流域内自治体間の費用と便益の解析ができる準備を整えた。埼玉県内の下水処理場においては、高度処理の導入にともなって、処理コストを抑えながらも処理水の環境負荷が削減されたことが明らかとなった。 (2)流域内自治体間の費用と便益の不均衡解消の手法の検討:昨年度構築した下水処理ゲーム(流域全体の下水処理コストを関係自治体に対して効率的に配分する協力ゲーム)の精緻化を行うとともに、論文作成に向けて既往文献の整理を行った。また、ゲーム理論の観点から今後収集すべきデータに関して提案を行った。 (3)政策に関する合意形成を実現できる手法の検討:Web調査会社モニターを活用した住民アンケート調査を行い、そのデータをもとにコンジョイント分析により高度処理がもたらす赤潮発生回数削減および温室効果ガス削減に係る便益を計測した。その結果、これらについて、統計的に有意に正な便益が認められた。一方で、現状維持を選好することに対しても統計的に有意に正な便益が認められ、赤潮発生回数削減および温室効果ガス削減のために処理方式を変更することに消極的な様子が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
埼玉県、東京都からのデータ提供が円滑であったこともあり、「高度処理システムの最適化の検討」「流域内自治体間の費用と便益の不均衡解消の手法の検討」の研究が予定通り進んでいる。 「政策に関する合意形成を実現できる手法の検討」については、2020年度に実施する市民討議会での提供情報の根拠となるアンケート調査が予定通り実施・分析することができたことから、市民討議会に向けた準備が順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)高度処理システムの最適化の検討:これまでに、対象とする下水処理場の環境負荷の一通りの解析は終えた。今後は、それぞれの下水処理場における影響域別の負荷の特徴などをまとめる予定である。また、この解析の一般化に向け、情報を整理する予定である。 (2)流域内自治体間の費用と便益の不均衡解消の手法の検討:費用便益分析の結果を受け取り、中川流域を対象としてゲーム理論による解析を行う。下水処理によって生じる流域全体の純便益を下水処理ゲームに入力し、いくつかの公平性の規準のもとで上流域と下流域の自治体に配分する。配分の計算は複数の下水処理方式について行い、結果は市民討議会へ提示するシナリオとして活用する。 (3)政策に関する合意形成を実現できる手法の検討:流域レベルでの高度処理システム最適化をテーマとした市民討議会を実施し、高度処理に係る費用・便益配分不均衡解消を実現できる政策シナリオに対する住民の選好および討議による選好変容を評価すると同時に、合意形成可能な整備シナリオを明らかにする予定である。 <課題>:市民討議会について、3密防止ないし3密の忌避から参加者の確保が困難になり、2020年度中に開催できない可能性がある。適当な代替手段がないため、本年中の実施ができない場合は、補助事業期間の延長申請を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
Web調査会社のモニターを活用した住民アンケート調査における画面設計において、選択肢を動的に表示する方式から静的に表示する方式に変更したことで、画面製作費が大幅に軽減され、「その他」について差額が生じた。次年度使用額(B-A)については、2020年度の学会発表の旅費および英文校閲費等に執行する予定である。
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