本研究では、中川流域をモデルとして、(1)流域全体での高度処理システムの最適化および(2)高度処理がもたらす流域内自治体間の費用と便益の不均衡解消を同時に実現するための政策決定手法、ならびに(3)政策に関する合意形成を実現できる手法を開発し、それらを実践することを目的とした。2021年度は以下の成果を得た。 (1)中川流域に設置されている4つの下水処理場(埼玉県:中川、古利根川/東京都:中川、葛西)を対象として、下水処理における環境負荷(T-P、T-N、CO2)の解析を行い、4つの処理場における処理方式・処理水量を変化させたときの流域内自治体間(都県別)の費用と便益の算出を可能にするアルゴリズムを作成した。 (2)(1)で作成したアルゴリズムを元に、赤潮発生抑制、水生生物保全、温室効果ガス削減による純便益の発生額に応じた7段階のシナリオを設定し、東京エリアと埼玉エリアの費用負担をそれぞれ示した。 (3)流域レベルでの高度処理システム最適化をテーマとした市民討議会を実施し、(2)で作成した高度処理に係る費用・便益を示した政策シナリオに対する住民の選好および討議による選好変容を評価すると同時に、合意形成可能な整備シナリオを明らかにすることを試みた。討議の前後で実施したシナリオ選択に関するアンケート調査データの分析の結果、討議を通じて、都県で相応の負担をしながら、赤潮発生抑止のみならず、水生生物保全についても実現を目指すべく合意形成がなされていた。個人の属性選好においては、討議前は、赤潮発生抑制、水生生物保全、地球温暖化防止、費用増加額のいずれかあるいは複数の属性を優先していたが、討議終了後は、自身の処理費用増加額と同時に、都県での処理費用増加額と総額のバランスを重視するようになった。討議を通じて、参加者は環境改善の便益ならびに都県での処理費用負担のバランスを考慮するようになっていた。
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