研究課題/領域番号 |
18K04419
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研究機関 | 埼玉県環境科学国際センター |
研究代表者 |
池田 和弘 埼玉県環境科学国際センター, 水環境担当, 専門研究員 (60422987)
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研究分担者 |
日下部 武敏 京都大学, 工学研究科, 助教 (40462585)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 蛍光分析 / 起源推定 / PARAFAC解析 / 水質モニタリング / 有機汚濁 / 短波長 |
研究実績の概要 |
三次元励起蛍光スペクトル法は、汚濁の流入を検知し負荷源を推定するリアルタイム性の高い水質モニタリング手法として期待される。しかし、既存の手法では、未処理生活排水と下水処理水および藻類による汚濁を蛍光から区別できない。一方、短波長領域に絞った蛍光分析とPARAFAC解析を行うことで、従来の研究よりも多くの蛍光成分を分離することが可能である。本研究では、負荷源ごとの短波長領域蛍光成分のデータを取得し、環境中での挙動を室内実験等により把握することで、蛍光分析により汚濁を検知し、負荷源を推定する新しい水質モニタリング手法を開発する。 平成30年度は、下水処理水や未処理生活雑排水を含む各種負荷源および河川から450検体を採水し、蛍光データを得た。励起波長225-350nm、蛍光波長250-380nmの範囲でPARAFAC解析することで、短波長領域で6成分を分離検出することでできた。これまでチロシン様蛍光物質(B)およびトリプトファン様蛍光物質(T)として検出されたピークは、本研究では、それぞれ2成分(長波長成分B1と短波長成分B2および長波長成分T1と短波長成分T2に分離検出された。BODあたりの蛍光強度を比較すると、下水処理水はT2が高く、未処理生活雑排水はB2が高く、畜舎排水はB1が高かった。負荷源ごとに特徴的な蛍光成分データが得られた。下水処理水中の蛍光成分の河川中での減少速度は、B1、B2、T2は同程度であり、T1はそれらより小さかった。河川水の分析結果を詳細に評価し、T2やB2の蛍光強度が特異的に高い地域・地点があることを確認するなど、各地点の蛍光特性を把握した。今後各蛍光成分の指標性を確認するために、負荷源や土地利用に関する行政データと関連性をみるのに必要な蛍光データを整理できた。また、膜分画やFT-MS分析により下水処理水や河川水の蛍光成分の特性評価を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、生下水、下水処理水、生活雑排水、畜舎排水、藻類の繁茂する河川水、工場排水の流入する河川水など様々な汚濁負荷源から採水を行い、短波長領域の蛍光分析とPARAFAC解析を行うことで、含まれる蛍光成分を分離検出・定量した。これにより、河川の汚濁負荷源を推定するのに必要な、負荷源ごとに特徴的な蛍光成分群によるフィンガープリントを得ることができた。また、下水処理水に含まれる各蛍光成分の河川流下過程での強度変化を観測し、その減少速度定数を算出し、残存性の評価も進めた。さらに、検出された蛍光成分の特性評価や同定のために、膜分画による分子量分布測定、およびFT-MS分析を実施した。これまでのところ、研究計画に沿って順調に研究が進んでおり、蛍光分析により汚濁を検知し負荷源を推定する手法を構築するための、重要なデータを取得できた。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、室内実験による短波長領域蛍光成分の実環境中での残存性評価を行う。各種負荷源の水について室内実験を行い、蛍光成分の生物分解性、光分解性、底質への吸着性をリアクター実験やカラム実験により評価する。さらに、短波長領域蛍光成分に対応する有機物の特性解析を進め、成分の描像を得ることで各成分の指標性に関する科学的裏付けを得る。具体的には、各負荷源の試料について、サイズ排除クロマトグラフィーによる分子量測定、アミノ酸組成分析を実施する。また、人為由来の化学物質の蛍光成分への寄与を明らかにするため、樹脂分画により疎水性の化学物質を除去し、その蛍光スペクトルへの影響をみる。また、各負荷源の蛍光データについても、季節変動などを評価するため引き続き取得する。
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次年度使用額が生じた理由 |
短波長領域蛍光成分に対応する有機物の特性解析のため、アミノ酸組成分析を平成31年度に行う計画であり、令和元年度は分析法に関する予備検討を行う予定であった。そのため、前処理装置(85万円程度)を含む物品費を多く計上していた。しかしながら、今年度に実施した蛍光分析結果から推測すると、当初の予想より測定すべきアミノ酸の濃度レベルが低く、当所の装置でアミノ酸を定量するのは困難であることが分かった。当面は委託によりアミノ酸組成分析を行うこととしたため、関連する物品費の執行を行わず、次年度使用額が生じた。 令和元年度は、多数の検体のアミノ酸組成分析を委託により実施する。また、試料を濃縮する必要があるため、関連する前処理装置を購入する。次年度使用額はこれらに使用する予定である。
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