研究課題/領域番号 |
18K04423
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
八十島 章 筑波大学, システム情報系, 准教授 (80437574)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 経年劣化 / 局所的変状 / かぶり欠損 / 鉄筋腐食 / 低強度コンクリート / 中心圧縮実験 / 圧縮特性 / Kent-Parkモデル |
研究実績の概要 |
本年度は,実建物の変状・構造的欠陥を模擬した鉄筋コンクリート造柱部材の中心圧縮実験を行い,局所的な変状・構造的欠陥が柱の圧縮破壊性状に与える影響を把握し,その柱の圧縮特性をコンクリートおよび鉄筋の構成則を用いて評価した。実験で対象とした変状・構造的欠陥は,鉄筋腐食によるひび割れ・鉄筋断面減少・付着劣化,かぶりの部分的な浮き・剥離,ジャンカや加水行為によるコンクリート圧縮強度低下とし,それらをポリプロピレンシートおよび押出発泡ポリスチレンのコンクリート埋設,鉄筋の切削とビニールテープ貼付,目標圧縮強度9MPaの低強度コンクリートによって再現した。 中心圧縮試験体は実大の曲げ柱の1/2スケールで,配筋は1971年以降の耐震基準に基づく設計とし,変状位置は曲げ柱の柱脚部に集中させた。試験体は計28体で,健全試験体が3体,主筋・横補強筋に沿ったひび割れ模擬の試験体が9体,かぶりの剥離欠損模擬の試験体が13体,鉄筋腐食による断面減少模擬の試験体が3体とした。 中心圧縮実験の結果より,柱の破壊性状は模擬ひび割れおよびかぶり欠損部を起点としてひび割れ損傷が進展し,その領域に損傷が集中することが確認された。また,模擬ひび割れの量および位置は最大軸方向力および応力軟化勾配にほとんど影響せず,鉄筋断面減少の有無は最大軸方向力および応力軟化勾配と明瞭な関係がないことを示した。さらに,かぶり欠損を有する柱の圧縮特性を,Kent-Parkモデルによるコンクリート構成則と鉄筋座屈を考慮した主筋の構成則で表現し,実験結果とモデルの対応関係を検討するとともに,かぶり欠損量と最大軸方向力および応力軟化勾配の関係を定量的に明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標は,既存建物の耐震診断や劣化予測の合理化かつ高精度化を目論み,変状や構造的欠陥の量・位置・程度・進行度に応じた柱および架構の耐震性能の変化をメカニズム知見に基づいて評価し,変状・欠陥のある柱部材の骨組架構に与える影響を考慮した新たな構造指標を提案することである。そのためには,実建物の変状・構造的欠陥を模擬した中心圧縮試験体,柱部材および骨組架構の構造実験を通じて,「変状・構造的欠陥による材料特性の劣化度合い」と「変状により破壊の局所化を伴う柱部材の構造性能低下レベル」と「変状・構造的欠陥のある柱の影響度を考慮した骨組架構の残存耐震性能」の関連性を解明することが必要である。 現在までに,実建物の変状・構造的欠陥を,ポリプロピレンシート埋設による腐食ひび割れの模擬,押出発泡ポリスチレン埋設によるかぶり剥離の模擬,鉄筋切削とビニールテープ貼付による鉄筋腐食の模擬,目標圧縮強度9MPaの低強度コンクリートによる加水行為の模擬によって再現した。さらに,それらの変状・欠陥を有する柱の中心圧縮実験を実施し,柱の破壊過程の把握および変状・欠陥の度合いに応じた柱の圧縮特性のモデル化まで進めており,概ね予定通りの進捗状況である。
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今後の研究の推進方策 |
変状・構造的欠陥の程度に応じた柱部材の構造性能低下レベルを精査するために,まず,柱試験体の中心圧縮実験で検証したコンクリートおよび鉄筋の構成則を用いて,かぶり欠損のある曲げ柱の断面解析を行い,変状・欠陥の度合いと曲げ強度および靱性能の低下率の関係を把握する。 解析結果およびその分析に基づいて,変状・構造的欠陥の量と位置を変動因子とした柱部材(試験体5体程度)の繰返し曲げせん断実験と残存軸圧縮実験を行い,局所変形計測および定点インターバル撮影により柱の損傷過程と破壊メカニズムを明らかにするとともに,変状・欠陥の劣化程度と構造性能(強度,靭性能,変形性能,軸耐力,崩壊変形)の低下レベルを定量的に関連付ける。 さらに,「局所的な変状による柱部材の構造性能低下レベル」と「変状した柱と健全な柱が混在した骨組架構の残存耐震性能」の関係を解明するために,変状した柱の本数をパラメータとした1.5層2スパンの骨組架構(試験体2体程度)の静的載荷実験を行う。実験結果に基づき,変状した柱部材の応力負担率,架構の応力再配分,変状・欠陥の影響度に着目し,架構全体の破壊過程と柱の局所的破壊の関係を明らかにする。また,変状・欠陥を有する骨組架構の最大耐力,耐力低下挙動,安全限界変形,崩壊挙動について,変状度合いを考慮した材料構成則に基づいた力学モデルによって性能評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度当初の計画では,変状・欠陥を有する柱の中心圧縮実験と曲げせん断実験をほぼ同時に実施する予定であったが,柱の中心圧縮実験およびその結果に基づいた圧縮特性のモデル化を優先させ,定量化したモデルによる曲げ柱の断面解析を行った後に,解析結果を踏まえた変動因子により柱の曲げせん断実験を実施する計画としたため,次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画については,前述の今後の研究推進方策に沿って,実験用物品費に充当する。
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