研究課題/領域番号 |
18K04430
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 裕一 京都大学, 工学研究科, 助教 (20293889)
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研究分担者 |
長沼 一洋 日本大学, 理工学部, 教授 (50755048)
金子 佳生 京都大学, 工学研究科, 教授 (60312617)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 鉄筋コンクリート / 耐震壁 / ポリプロピレン繊維補強コンクリート / 乾燥収縮 / ひび割れ / ひび割れ,拘束 / 衝突 / 有限要素解析 |
研究実績の概要 |
従来RC建物の乾燥収縮ひび割れ対策は美観維持や鉄筋発錆防止を主眼に行われてきた。しかし最近の解析から,乾燥収縮ひび割れが曲げ降伏型部材主体の建物の地震時応答変位を増大させることが指摘されている。これらの研究では1,000μ程度の乾燥収縮ひずみが想定されている。応答変位抑制のための部材断面の増大や補剛部材の追加は使用性・経済性の低下を招く。架構構成を変えることなく乾燥収縮ひずみを抑制し応答変位を低減するために繊維補強コンクリートの応用が考えられる。一方,中高層鉄筋コンクリート建物の地震応答解析を実施すると,局部的には5/s程度の大きなひずみ速度が耐震壁に生じることを確認している。これらの条件を再現しつつ,収縮ひび割れによる応答増大の抑制を図ることを目的として,これまでに6体の耐震壁の衝撃載荷実験を実施するとともに,その挙動を二次元及び三次元非線形有限要素法により再現した。その結果,普通コンクリート耐震壁に比べ,ポリプロピレン繊維補強コンクリート耐震壁の衝撃載荷後の固有周期増加は平均13.7%抑制されることが判明した。固有周期増加の抑制は構造物剛性低下が抑制されていることを意味し,繊維による損傷抑制効果が振動特性からも示されることとなった。また実験と解析の相互の結果が適切な対応を示したことから,本研究で用いた繊維補強コンクリートの引張軟化モデルを含む材料構成モデルの妥当性も確認した。次いで耐震壁の検証に用いた有限要素モデルを,50層RC構造物の全体有限要素モデルに適用し,静的載荷による保有水平耐力解析および地震波入力による時刻歴応答解析を実施し,繊維補強の効果を検証した。ただし感染症の影響により,2020年度に予定していた実験の一部が実施できず,また成果発表を予定していた国際会議が延期となったことから,2020年度終了予定の研究期間の1年延期を申請し,了承いただいた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度までに実施した耐震壁実験に基づき,有限要素モデル化に必要な(1) 接触界面用要素の改良,(2)ポリプロピレン繊維補強コンクリートの引張応力―ひび割れ開口幅関係 (3) Hertz則を参考とした衝突部の非線形剛性モデル,(4)ひずみ速度モデルの4つをより幅広いパラメータ解析を実施することにより信頼性を高めた。すなわち,(1)繊維補強の有無,(2)衝突速度(2.5m/s,5.0m/s,7.5m/sの3種),(3)収縮ひずみ倍率(0.5倍,1.0倍,1.5倍の3種)をパラメータとした計18ケースの解析により,最大荷重,最大変位,ひび割れ,および固有周期の変化を確認した。実験結果とパラメータ解析の結果から,繊維補強によって載荷後の固有周期増加が平均13.7%抑制されることを確認した。 この結果を踏まえて,国土開発技術センターNewRC開発概要報告書に示された50層耐震壁付きフラットスラブ構造集合住宅試設計に対し,(1)収縮ひずみの有無,(2)繊維補強の有無,(3)載荷方法(水平静的載荷および3種類の地震波による動的解析)をパラメータとした有限要素モデルを構築し,計16ケースの解析を実施した。その結果,(1) 水平静的載荷では,収縮ひずみの考慮により最大荷重が低下する一方,繊維により最大荷重が増大すること, (2) 震動下では,収縮ひび割れによる剛性低下によってむしろ入力加速度と卓越周期が乖離し変位が減少すること,(3) 震動下の最大変位は入力加速度の大小よりも卓越周期の大きさの方が影響すること,を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
感染症の影響により,(1)2020年度に予定していた実験の一部が実施できず,また(2)成果発表を予定していた国際会議が延期となった。(1)実験については,落下錘の質量と落下高さを変化させ,コンクリート非線形構成モデルの適用範囲の拡大を目指しており,2021年度に実施可能な目途が立ったため,準備中である。(2)成果発表については,既に学会誌等に投稿して成果の一部は公表済みであるが,発表を予定していながら延期となった第17回世界地震工学会議は同分野で最も権威ある国際会議の一つであり,研究成果の社会的認知のためにも参加する意義がある。既に原稿は採択され論文集のみ先行して公刊されている。 研究の最終目標として,ポリプロピレン繊維補強コンクリートの非線形解析用構成モデルを確定し,これを中高層鉄筋コンクリート建物の有限要素モデルに適用し,地震応答を検証する。建物モデルは,(1) 日本建築学会性能評価型設計指針の設計例である12層現行耐震設計建物,(2) 既往地震で被災した22層旧耐震設計建物,(3) NewRC研究開発の設計例である50層現行耐震設計建物の3種とする。共通する解析パラメータは,(1)材料種類(普通コンクリート,ポリプロピレン繊維補強コンクリート),(2)乾燥収縮ひずみ(普通コンクリートで1000μと2000μ,ポリプロピレン繊維補強コンクリートで593μと1187μ),および(3)地震波(代表的なもの5種)とし,一つの建物につき20ケースの解析を進めている。解析に基づき,最大部材角,部材内最大ひずみ速度,固有周期,ひび割れ量を定量化した上で,ポリプロピレン繊維補強の振動抑制効果を評価する。いずれも昨年度から着手しており,特に(3)の50層建物についてはある程度の解析結果を得ているが,本年度は要素分割数増可加等の高精度化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
(1) 2020年度に予定していた実験の一部が感染症拡大による実験設備使用制限により延期せざるを得なくなった。試験体自体は製作済みであるため,載荷装置の再組み立て,計測用消耗品,試験体廃棄に関わる支出を予定する。 (2) やはり延期となった第17回世界地震工学会議(仙台)への参加旅費支出を予定する。 なお解析作業については既存設備で対応する。
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