研究課題/領域番号 |
18K04431
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 皓平 京都大学, 工学研究科, 准教授 (40648713)
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研究分担者 |
竹脇 出 京都大学, 工学研究科, 教授 (20155055)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 構造ヘルスモニタリング / システム同定 / 損傷同定 / 非構造部材 / 画像計測 / 信頼性解析 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,地震などの災害発生時に建物の耐震性能や機能維持性を総合的に判断することを目的としたモニタリングシステムを構築することを目的としたもので,建物で観測される地震時床加速度応答を用いた建物のモデル同定に加えて,建物の機能維持に影響度が大きい非構造部材の対象としたモニタリングデータを併用して建物全体の被災度を判断することを目指したものである。本年度では,地震後の建物の残存耐震性能を総合的に評価するために,建物で観測される地震時床加速度応答を用いたシステム同定に加えて,非構造部材を対象とした画像モニタリングによる天井裏の設備配管などの損傷検知の可能性を検討した。本課題により提案する構造ヘルスモニタリングの枠組として,システム同定については,観測層位置が限定されている場合の地震時観測データに基づきモデルパラメターを同定し,非観測層の床加速度推定を行う方法を展開した。本手法では,固有モード情報を用いないため,地震時に建物に生じた最大層間変位の推定にはまだ課題が残るものの,高層免震建物を対象として免震層の弾塑性復元力特性の推定への活用などを提示した。一方,非構造部材を対象としたモニタリングに関しては,昨年度に引き続き,天井裏の設備配管を対象として画像モニタリングを行うためのIOTセンサーの開発を継続した。本年度では,提案モニタリングシステムの実大架構振動台加振実験への適用に向けて,小型計測ユニットに加速度センサーを新たに搭載し,3方向の加速度を常時モニタリングし地震時の建物の揺れを感知することで,これをトリガーにして画像計測を自動的に行う機能を新たに実装した。本加振実験により,非構造部材の地震時の挙動の動画データや加振前後における静止画データの収集に成功しており,差分解析や動体解析により,地震時の最大変形や残留変形の推定を行う方法を展開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地震などの災害発生時やその直後に,建物を継続的に利用可能かどうかの判断を行うためには,建物の構造性能や設備機能などを総合的に判断することが必要となると考えられる。構造性能に関しては,観測データから建物のモデル同定を行う構造ヘルスモニタリング手法として,少数の加速度センサーから建物全体の被災度判定を行う方法の展開を目指している。対象建物を物理モデルとして同定することで,同定したモデルの地震時応答解析シミュレーションによって,非観測層を含めた各層の床加速度時刻歴が取得できることから,什器等の非構造部材の転倒などの推定が可能となる。本年度は,免震建物モデルにおいて,基部と免震層直上および上部構造の頂部水平加速度のみが観測できるとした場合を想定し,提案手法の課題を抽出した。一方,非構造部材を対象とした場合のモニタリングについては,地震後に状態の確認が容易ではない天井裏等の設備機器に着目しており,天井裏の吊り配管や空調機器などは,地震時の過大な変形に起因して周辺の設備機器等への衝突が生じることで,配管そのものの破損や,周囲の小径配管との接合部での破損等が生じる可能性がある。モニタリングを行う天井裏では,一般に光源がなく閉所・暗所であるため,本研究課題で開発を行っている画像計測センサーでは赤外線カメラを採用している。これまでの研究では,天井や設備配管を再現した実大架構試験体に対する振動台加振実験のプロジェクトに本提案モニタリングシステムを適用し,対象物の地震時挙動に関する視覚データを取得することが可能であることを確認した。設備配管などの非構造部材の損傷個所を事前に特定することは困難であることから,実験時には様々な位置での計測を行っており,これらの膨大な画像データから,部位ごとの損傷状況の定量化や機能維持に及ぼす影響を評価する方法を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
構造ヘルスモニタリングに関する建物のモデル同定に関しては,実観測データから得られる建物の伝達関数と同定モデルの伝達関数を一致させることを目的として,弾性時剛性などモデルを構成するパラメターを同定する。しかしながら,実際の地震時応答では,建物の振幅に依存した減衰の変化など,線形モデルでは説明ができない事象などを考慮する必要があり,今後はこれらの非線形性をモデル同定に組み込むための理論的アプローチを展開する。さらに,本年度では,本研究課題とは異なるプロジェクトにより,実大鋼構造架構に対する振動台加振実験に参画し,大振幅地震動に対する建物の実観測データを収集した。収集したデータには計測ノイズなども見られることから,本提案手法の適用し,実データへの適用の際の課題を明確にし,本手法の信頼性を向上させる。 また,本課題では建物の総合的な被災度として,構造性能に加えて電気・水道などのライフラインとその設備機器といった非構造部材の損傷の同定も必要としている。システム同定によって推定される床応答から建物に付随する非構造部材の応答を分類するためには,非構造部材の動特性や被害モードを予め把握することが求められる。これまでの研究では,吊り配管の設計用詳細モデルの固有周期特性などを置換した簡易な質点モデルにより,配管に生じる加速度と損傷度の関係を信頼性理論に基づく損傷確率から評価を行った。今後は,本研究課題で開発を行った画像計測センサーによる画像計測に基づく地震時最大変形や残留変形の推定と,事前の損傷確率による損傷度との対応関係について検討する。また,画像計測による地震時の最大変形の推定精度をさらに高めるために,吊り配管に対する静的加力試験による追加実験を計画する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で,予定していた国際学会が延期となり,旅費による支出がなくなったため,次年度使用額が生じた。本年度では,画像計測による設備機器の最大変形を推定する際に,推定精度の評価に必要となる実際の変形量の正確なら実験値を得ることを目的とした追加実験を計画している。
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