研究課題/領域番号 |
18K04432
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
塚越 雅幸 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 助教 (50579711)
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研究分担者 |
上田 隆雄 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (20284309)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中性化 / 促進劣化試験 / モルタル・コンクリート / 断熱材 / 防水材 |
研究実績の概要 |
壁面を想定したRC試験体の2面に,室内外を想定したそれぞれ異なる暴露環境を同時に作用させることのできる試験装置を作製した。装置内のCO2濃度は,ガス濃度センサーと電磁弁により制御しファンにより装置内を対流させた。温度と含水率は,熱電対型のセンサーにより継続的に計測し,夏季の温度は,赤外線ランプの出力を変圧器で調整できるようにした。冬季については,冷凍機を用いてコントロールし,試験体表面温度で5℃~80℃の温度範囲を再現が可能となった。 作製した装置を用いて,RC壁面の内外面の温湿度環境の違いが,RC部材の断面(室内外)方向の温度と含水率の分布と経時変化,仕上材料(断熱・防水)の有無や性能がRC部材の劣化速度に及ぼす影響に検討した。なお,作用させる環境要因は実RC建築物の室内,壁内,屋外のデータをリアルタイムで測定し,同期するように与える予定であったが,本年度は夏・冬を模擬した一定の促進環境での試験を行った。また,このような環境下にあるコンクリート壁面中の温度・含水率の進行予測シミュレーションプログラムの作成も行った。 上記の試験条件の範囲において,気体の遮断性能が高い断熱材や防水材をモルタル表面に施工することで,施工面の中性化は抑制される。さらに,外断熱試験体はモルタル単体と比べて,夏季の温度上昇が抑制され,含水率も比較的高い値で保持されるため,屋内側の中性化速度も抑制された。しかし冬季では,試験体全体が高温で保持されるため,モルタル単体に比べて屋内外面ともに含水率の低下速度が速く中性化速度も大きくなることを明らかとした。本試験結果は,既往研究などで行われている屋外暴露試験・促進劣化試験についてはともに試験状況が単純化されており,劣化に関連する環境要因を正しく作用させることが出来ていないケースがあり,実構造物の劣化状況と速度に差が生じている危険性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
促進劣化装置自体の作製は順調に行われているが,その装置内で作用させる環境要因については,現状は夏季と冬季の特徴を再現した模擬的な促進劣化環境となっている。本来であれば,実鉄筋コンクリート建築物の室内と壁内,また屋外の環境データをリアルタイムで測定し,同期するように与える予定であったが,装置のサイズ・時間的な問題(装置作製と劣化試験,論文の執筆)の関係上,上記のような促進環境での試験を行うこととした。本件については,次年度の鉄筋腐食環境も同じく促進劣化環境でとらえた後,1年間の通年実験という形で最終年度に行う予定である。 RCの劣化予測シミュレーションの前段として,外断熱・防水を有するコンクリート中の温度・含水率分布推定のための,断面2次元でのプログラムをすでに作成しており,今後行う鉄筋腐食環境への応用も可能となっている。 具体的な実験の中身については,中性化とその後の鉄筋腐食までを3年間で予定していたが,促進環境下にある中性化の進行までを終えている。ただし,鉄筋腐食に関する検討については,別途予備試験を行っており,試験体の形状等に起因する不具合の問題の抽出などについては検討を行なっている。そのため,試験体の形状や試験期間の設定など,今後の実験の範囲では大きなトラブルを避け,スムーズに進行させることができるのではないかと考えている。また,本年度からは温度・湿度の観点から2つに試験装置を分けて実験を行うことで,データの収集速度も向上が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今回作製した,2方向同時暴露促進試験装置により,鉄筋コンクリート(RC)部材の劣化環境がより厳しい状況になりうる条件や,部材の劣化倍率への影響について鉄筋腐食速度の観点から検討する予定である。また,これらの結果は実構造物でのモニタリング時に収集すべき環境条件や方法についても再検討するための資料となるものと思われる。また,中性化試験と同様に,試験体表面に施工される断熱・防水などの仕上材料の有無や性能がコンクリート中の鉄筋の腐食速度に及ぼす影響についても比較検討を行なう予定である。 また,室内外の問題は地上階の検討のみならず,地下構造物でも同様の問題は発生する。具体的には,地下水の影響を受けるような湿潤環境の室外面と,一定の乾燥状態にある,もしくは湿気の高い地下室などを想定した場合での劣化環境の評価試験が必要ではないかと考えている。鉄筋の腐食速度は様々な要因により決まるが,鉄筋周辺のコンクリートの含水率と細孔溶液中の溶存酸素量に強く影響を受けることが知られている。特に,漏水が生じた際に高含水状態となりやすい。また,室内側の仕上げ材の施工は,コンクリート内部の乾燥速度や酸素の供給量に影響を与える。そこで,外壁面から水分供給されているような地下RC壁面内部の鉄筋腐食状況を評価するために,室内側の表面仕上げ材料の種類や工法をパラメーターとした地下壁面を模した供試体を作製し,電気化学的モニタリングによる鉄筋腐食測定について準備している。地下構造物での漏水に関するトラブルは後をたたない。そのため,地下RC壁の外壁側面より漏水が生じた際,内装仕上げの種類が鉄筋腐食状況に及ぼす影響について,地下壁面を模した供試体での実験・解析的検討を行なう予定である。
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