研究課題/領域番号 |
18K04435
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
北山 和宏 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 教授 (70204922)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 建築構造・材料 / 鉄筋コンクリート構造 / 柱梁接合部 / 降伏破壊 / 軸崩壊 |
研究実績の概要 |
三方向地震動を受ける鉄筋コンクリート(RC)柱梁接合部が曲げ降伏破壊してから軸崩壊に至る一連の機構を解明し,柱梁接合部が軸崩壊する時の骨組の限界変形を把握することを目的にして研究を開始した.本年度はその基礎として,既往の実験研究(Hassan・Moehle[2012,2013],片江・北山 2015,石塚・北山 2016,村上・前田ら 2017)における柱梁接合部の破壊形態を詳細に検証することによって,曲げ降伏破壊したト形柱梁接合部が軸崩壊するときの破壊モードは以下の三種類が存在することを指摘した. 具体的には,1) 柱梁接合部内の外側部分(梁の接続しない面の近傍)のコンクリートが圧壊することによって軸縮みを生じて,接合部に接続する上柱および下柱が「く」の字に変形して崩壊するモード,2) 水平力の載荷方向と対応して開口した柱梁接合部斜めひび割れの面に沿って,上柱が滑り落ちて崩壊するモード,および3) 水平力の載荷方向とは逆方向の載荷時に開いた接合部斜めひび割れが閉じずに,その面に沿って上柱が滑り落ちて崩壊するモード,の三種類である. これと並行して,立体部分骨組に変動軸力および二方向水平力を正負交番載荷する実験を行うため,立体隅柱梁部分骨組試験体3体を作製した.梁スパン1600mm,階高2400mm,梁幅250mm,梁せい400mm,柱断面310mm×310mmは共通である.実験変数は,変動軸力における圧縮側の軸力比および接合部横補強筋量である.柱梁曲げ耐力比は,軸力減少側(軸力0)で1.6程度,軸力増大側(圧縮軸力比0.08あるいは0.16)でそれぞれ2.4あるいは3.0程度として,軸力減少時に接合部降伏破壊を生じるように設計した.静的載荷実験は今後実施する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では「課題1:柱梁部分骨組の実験」および「課題2:曲げ降伏破壊後に軸崩壊する柱梁接合部の力学モデルの構築」の二つの課題を解決することを目標とする.課題1については,立体隅柱梁部分骨組試験体3体を設計して作製した.実験変数は,変動軸力における圧縮側の軸力比および接合部横補強筋量である.隅柱の軸力は地震動による水平力の方向によって連続的に変化する.静的載荷実験ではこの状況を忠実に模擬することが望ましいが,反面,載荷プログラムは煩雑になる.そこで本質を見失わない範囲で変動軸力の載荷履歴を簡略化することを考えた.具体的には,柱頭がx-y水平面に描く軌跡を見たときに第一象限から第四象限の各象限での軸力は一定として,各象限に一定の軸力を割り当てた.すなわち本実験においては柱軸力は離散的に変動するように加力する.試験体の設計に時間を要したため,2018年度には試験体を作製するにとどまった.静的載荷実験は今後実施する. 課題2については,「研究実績の概要」に記載したように既往の実験研究を概観して,曲げ降伏破壊したト形柱梁接合部が軸崩壊するときの破壊モードを三つに区分した.さらに,軸崩壊する柱梁接合部の力学モデルとして現在までに唯一提案されたHassan・Moehle(2013)の研究を精査した.Hassan・Moehleが対象とした柱梁接合部には横補強筋がなく,せん断破壊した柱梁接合部を対象にせん断摩擦理論を応用したものであり,曲げ降伏破壊したあとに軸崩壊する柱梁接合部を検討対象とする本研究に直接には適用できないと判断した.これらの知見は柱梁接合部の軸崩壊を表現できる力学モデルの構築に大いに役立つ. 上述のように当初予定した立体隅柱梁部分骨組試験体を用いた静的載荷実験は未だ実施に至っていないことを勘案して,初年度の研究目標は「やや遅れている」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度には, 前年度に作製した立体隅柱梁部分骨組試験体3体に静的正負交番載荷する実験を実施する.実験では,柱梁接合部が曲げ降伏破壊してから軸崩壊に至るまでの諸事象(ひび割れの発生,梁・柱主筋および接合部横補強筋の降伏,コンクリートの圧壊,柱主筋の座屈など)を詳細に観察・測定するとともに,柱梁接合部等のひび割れ幅をデジタル・マイクロスコープによって精密に測定する.実験変数(変動軸力の大きさおよび接合部横補強筋量)が最終的に接合部軸崩壊を生じる部分骨組の変形性能に与える影響を定量的に評価することを試みる. 上記の実験実施と並行して,柱梁接合部の曲げ降伏破壊から軸崩壊に至る力学モデルの構築を目指す.曲げ降伏破壊したト形柱梁接合部が軸崩壊するときの破壊モードとして,ここでは既往の実験結果の分析から,引張り軸力となる載荷時に開いた接合部斜めひび割れが逆方向載荷時(すなわち圧縮軸力側)に閉じずに,この斜めひび割れ面に沿って上柱が滑り落ちて軸崩壊するモードに注目する.柱梁曲げ耐力比が比較的小さい我が国の建物においては,このモードによる柱梁接合部の軸崩壊が発生する可能性が最も高いと判断したためである.この力学モデルに基づいて柱梁接合部が曲げ降伏破壊後に軸崩壊するときの骨組の限界変形の定量的な評価手法を導出したい. この実験結果を詳細に分析し,提案した力学モデルの妥当性を検証するとともに,変動軸力の大きさや接合部横補強筋量が軸崩壊時の変形性能に与える影響を精査する.これらの検討結果からさらに検証を要する要因を抽出して,第二番目の静的載荷実験の計画を策定して実施する.具体的には梁が三方向から貫入する立体外柱梁部分骨組1体と比較用の平面十字形1体を作製する予定である.
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