研究課題/領域番号 |
18K04436
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
永村 一雄 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 教授 (60138972)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 再帰反射 / 屈折率 / ビーズ |
研究実績の概要 |
作成した基材の反射性能は、既存2種類の再帰反射系材料と光学特性を比較することで対比した再帰反射基板作成法について、当初計画では、スプレーガンによるビーズ吹付け施工が有力と考えていたが、実際に噴霧し対象基材へ塗布したところ、周囲へのビーズ飛散量が大量となり、かつ基材表面へのビーズ付着も密度が低い状況であった。圧力や塗布塗料などを変えてみたが、周囲へのビーズ飛散量が大きく改善することはできなかった。そこで、自然落下や水中固定など各種方法を試したところ、フルイを模した道具を作成し、そこからビーズを上方より自由落下させ、塗料に自然接着したビーズのみを残しながら、積もったビーズを払い落として多重層化を防ぐ方法が飛散量を大きく減らすだけでなく、もっとも簡易に単層化に近づけた。なお、使用したビーズは屈折率1.9ならびに1.5とした。これは、光学数値解析や実測から前者がもっとも高い再帰性を示すが比較的高価なため、やや低反射でも再帰性が望める後者も建材として候補になると考えたからである。 上記作成法に基づく再帰反射素材について、反射率の基本性能を計測した。対照となる再帰反射素材には、これまでの研究で高性能な反射性能を有する市販のカプセルレンズ型とプリズムレンズ型を用い、これと対比させた。光源は本来は太陽光波長全域での反射特性が必要となるが、試作段階のため、可視光域を中心に反射性能を比べたところ、屈折率1.9で、白が入射角依存も少なく、ほぼ28%の再帰反射率を保持した。建材として期待した灰色では、入射角に依存して27%から20%となり、再帰分が小さいことがわかった。白色と黄色は前者が27%程度、後者が22%程度と比較的入射角依存度に対しても安定した再帰反射率を維持した。 比較的容易な自由落下での付着によるビーズ散布固定であっても、再帰反射率がそこそこ得られたことは、大きい成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画で予定したスプレーガンによる吹付け型塗布では、ビーズが大量に無駄になり、効率的に基材表面に塗布できない事態となった。そこで、ビーズ径よりやや大きめの目のこを用いたフルイによる自由落下型のふりかけ塗布を行ったところ、形成された反射層を単層化に近づけられたこと、かつ無駄なビーズ飛散も最小限度の抑えられることがわかった。むろん、作成法は計画通り比較的良好に行えたが、同時にその反射率も、ある程度の値を有していることが望まれる。そこで、高価ではあるが既存のガラスビーズ型ならびにプリズムレンズ型を対照に、今回の簡易施工素材と再帰反射率で対比したところ、建材とした多く用いられている灰色の場合でも、再帰反射率は27%から20%は保持していることがわかった。もちろんこの値は入射角に依存しているが、ここまで簡易な施工素材であっても、最低限度20%の再帰反射率を確保できたことは、確かな成果と判断している。ただし、今回の簡易施工法では、単層に近くはなるが、複数層になるものもあった。なお、このような数層になる場合がミじっていたとしても、再帰反射率そのものは、大きく落ちることもないことが測定から判明した。
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今後の研究の推進方策 |
スプレーガンによる吹付け型ではなく、自由落下型のふりかけ方式による塗布麺への固着製法が施工性が高く、くわえて再帰反射率も機能を損なわない程度の値で推移したことから、この施工法を改良し、塗布層の単層化をどう実現するかを試行することになる。また、再帰反射率は入射角依存のため、再帰反射分布特性を計測し、層厚みとの関係を把握する。 なお、今年度夏季における大阪来襲の台風21号の被害により、測定機器の大半が破損する事態となった。自然光に対しての反射率を継続して測定するため、棟屋上に実験装置を設定していたが、台風による飛来物で機器の入った実験小屋が大きく破損し、内部機器も故障してしまった。このため、主に熱特性を含む肝心の遠赤外域特性の測定機器がなく、可視光のみしか計測できていない。もちろん、可視光域でも反射率が高いことは望ましいが、可視域は建物そのものの外観に関わることが多く、望ましい反射率を有した色を選択したくとも、施主の意向と違えば、選択できなくなる可能性が高い。そこで、可視域ではなく遠赤外域でこそ、再帰反射率の高い素材開発が求められ、これであれば、色の自由度は増すことから、市場への導入も容易になると考えられる。こうした背景から、自然災害での機器破損を考慮し、次年度、当初計画になかった遠赤外分光器の講習を許容していただきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年の夏に大阪を襲った台風21号により、自然光を用いた反射率測定機器の大半が飛来物で大破した。これまで科研で購入していた遠赤外分光器なども被害を受けたため、建材の再帰反射性能を大きく左右する遠赤外域での反射率測定が夏の台風被害以降できていない。当初の2年目計画にはなかった遠赤外分光器だけは購入して研究を継続したく、初年度も予定していた機器については、精度をやや落とした安価なものに変更している。また、海外発表などの旅費や実験補助による謝金を削って、次年度、遠赤外域分光器購入にあてる対応をしてきた。幸い、計画自体は順調に推移し、その成果を投稿したところ、オープンジャーナルにも仮採択され、実績は確実に出していると自負している。また、次年度の物品費と所属機関の手持校費を合わせれば購入できる遠赤外域分光器も見出した。研究業績の公開は、今年と同じく主に論文投稿に絞ることで旅費を抑えることも可能であるし、実験は協力者間でしのぎつつ、実験への謝金を絞ることで対応したいので、自然災害で破損した機器の購入を認めていただきたい。
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