研究課題/領域番号 |
18K04448
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
西村 泰志 大阪工業大学, 工学部, 教授 (10102998)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ハイブリッド構造 / RC柱 / S梁 / T字形柱梁接合部 / 小鉄骨 / せん断補強筋比 / 小鉄骨の埋込み長さ / 支圧性能の改善 |
研究実績の概要 |
本研究は、S梁とRC柱で構成されるT字形柱梁接合部を対象として、柱梁接合部に埋め込まれる梁鉄フランジ下面に取り付けられる小鉄骨が支圧破壊性状の改善に有効であるかを実験的に検討し、小鉄骨を有するS梁からRC柱への応力伝達機構および抵抗機構に基づく耐力評価法を提案しようとするものである。 平成31年度 ( 令和元年度 )は、平成30年度の結果を踏まえ、柱梁接合部のせん断補強筋比を大きくし、小鉄骨の埋め込み長さを実験変数とした試験体について実験 ( シリーズ Ⅰ と呼ぶ ) を実施した。柱梁接合部のせん断補強筋比は 0.853 % である。小鉄骨は H-150×80×6×9である。埋込み長さは、小鉄骨のせいの 1,2,3倍である。本年度は、更に、埋込み長さが小さい試験体を対象として、小鉄骨端部にエンドプレートを設置する補強法および小鉄骨の周囲にせん断補強筋を配置する補強法を提案し、その効果を実験的に ( シリーズ Ⅱ と呼ぶ ) 検討した。実験は、S梁両端を単純支持し、RC柱端部に正負漸増繰返し荷重を負荷する。 シリーズ Ⅰの実験から、小鉄骨の埋め込み長さが短い試験体は, S 梁フランジ上面にコンクリートの支圧破壊が観察されたが、埋め込み長さが長くなると支圧破壊は観察されなかった。小鉄骨の埋め込み長さを小鉄骨のせいの 3 倍にすれば小鉄骨を考慮したSRC柱としての曲げ耐力を発揮できる。なお、昨年度の結果と比較して、柱梁接合部のせん断補強筋比が多い程耐力は増大することが示された。これらの耐力は、研究代表者の既往の力学モデルによってほぼ評価できる。 シリーズ Ⅱの実験から、単独にエンドプレートおよび小鉄骨の近傍にせん断補強筋を配置するのみでは耐力の増大は期待できないが、これらを同時に設置するとSRC柱としての曲げ耐力の95%程度まで耐力を期待できることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成31年度( 令和元年度 )は、S梁とRC柱で構成されるT字形柱梁接合部を対象として、小鉄骨の埋め込み長さを変数として、支圧破壊性状の改善に対して小鉄骨の有効性を実験的に検討した。本年度は昨年度の結果を踏まえ、柱梁接合部の内部パネルから外部パネルへの応力伝達は、内部パネルと外部パネルとの間のねじりモーメントに大きく依存する。したがって、柱梁接合部のせん断補強筋比を大きくした試験体 ( 0.853% )を計画した。せん断補強筋比を大きくすると埋込み長さに関らず耐力を増大させることができるが、柱の曲げ耐力を発揮させるためには、小鉄骨の埋め込み長さを小鉄骨のせいの3倍にする必要があることが示された。また、破壊性状および研究代表者の既往の研究成果に基づいて、小鉄骨を加味したS梁からRC柱への応力伝達機構および抵抗機構に基づいて、終局耐力評価法を提示した。しかしながら、若干実験値を評価できない部分があり、この点については更に検討する必要がある。更に、本年度は、小鉄骨の埋込み長さが小さい場合であってもその性能を改善するための補強法を提案した。その補強方法は、小鉄骨端部にエンドプレートを設けることおよび小鉄骨の近傍にせん断補強筋を配置する方法である。その結果、単独にエンドプレートおよび小鉄骨の近傍に配置したせん断補強筋を配置するのみでは耐力の増大は期待できないが、これらを同時に設置するとその性能を改善できることが示された。 上記のように、平成30年度および平成31年度 ( 令和元年度 )の検討によって、最終年度に小鉄骨を有する柱梁接合部の支圧耐力を評価できる設計耐力式を提案できる可能性が示されている。したがって、現在の研究の進捗状況はおおむね順調であると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
平成 30 年度および平成 31 年度 ( 令和元年度 ) は、小鉄骨を取り付けたS 梁とRC 柱で構成されるT字形接合部を対象に、柱梁接合部のせん断補強筋比の大小によって、小鉄骨の埋込み長さによる支圧破壊性状の改善の有効性を実験的および解析的に検討した。これらの実験結果から、小鉄骨の埋め込み長さを小鉄骨せいの 3 倍にすれば、小鉄骨の曲げ耐力を加味したSRC断面としての曲げ耐力を発揮できることが示された。更に、小鉄骨の埋込み長さが小さい場合、小鉄骨の周囲にせん断補強筋を付加する補強法あるいは小鉄骨端部にエンドプレートを設置する補強法を提案し、その妥当性を実験的に検討した。また、既往の研究代表者の研究結果に基づいて、小鉄骨を有するT字形柱梁接合部の応力伝達機構および抵抗機構に基づく耐力評価法を提示した。若干実験値を合理的に評価できない場合があるのでこの点については、更に検討する必要がある。 平成 30 年度および平成 31 年度 (令和元年度) の研究では、小鉄骨のせいを 150 mm とした。小鉄骨を考慮したSRC部材としての曲げ耐力を発揮させるためには小鉄骨のせいが大きい方が効果的であると考えられる。そこで、令和2年度は、小鉄骨の効率性を増大させるために、小鉄骨のせいを実験変数とした実験を計画したい。 令和2年度は、本研究の最終年度として、平成30年度、平成 31 年度 (令和元年度) および本年度の実験結果および既往の研究代表者が行ったT字形柱梁接合部の応力伝達機構および抵抗機構に基づいて、小鉄骨を有する接合部の終局支圧耐力評価法を提示し、これらの耐力評価法に基づいて簡便な終局支圧耐力設計式を提示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成 30 年度および平成 31 年度 ( 令和元年度 )の検討において、小鉄骨の支圧破壊性状の改善に及ぼす効果は、小鉄骨の埋め込み長さが大きく影響することが示された。しかしながら、小鉄骨を考慮した SRC 柱断面の耐力を発揮させるためには小鉄骨のせいが大きく影響することが想定される。平成 30 年度および平成 31 年度 ( 令和元年度 ) に計画した実験では、小鉄骨のせいを150 mm としたが、本年度は、埋込み長さを 300 ㎜ とし、小鉄骨のせいを 180 および 100 とした実験を計画したい。そこで、昨年度、これらを想定した実験を計画したいとの考えから、助成金を極力抑えた実験を計画した。 したがって、令和 2 年度は、既往の研究代表者が行ったT字形柱梁接合部の応力伝達機構および抵抗機構に基づいて、小鉄骨を有する接合部の終局耐力評価法を提示し、これらの終局耐力評価法に基づいて簡便な終局耐力設計式を提示することのみを想定していたが、本年度の研究結果を踏まえ、更に合理的な終局耐力設計式を提案したい。
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