研究課題/領域番号 |
18K04456
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
磯崎 日出雄 神戸大学, 学術・産業イノベーション創造本部, 特定プロジェクト研究員 (50737161)
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研究分担者 |
大原 誠 神戸大学, 学術・産業イノベーション創造本部, 特定プロジェクト研究員 (10633620)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | べき乗項積型空調機数値モデル / 空調機実測 / 空調負荷予測 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
当初の今年度の研究計画テーマは主として,空調機のモデル化と学習型負荷予測の開発の2点である. 1 空調機のモデル化 まず空調機のモデル化に関する先行研究調査を行った.調査対象は,HASP/AGSS/8502冷温水コイルモデル,HVAGSIM+Type602など7種類である.しかしながら何れの既存空調機モデルも反復計算や連立方程式の求解が必要であり,複数の建物を接続することを想定しているサーマルグリッドシステム運用を準最適化するためのシミュレーションに用いるには複雑過ぎ,計算時間がかかり過ぎると判断された.そこでインテックス大阪におけるサーマルグリッド実証で用いたべき乗項の積で空調機出力を近似する「べき乗項積型空調機簡易モデル」を改良・発展させたモデルを作成してその有効性を検証した.改良項目は,べき乗項を2項(水量項,温度差項)から4項(風量項,湿度項を追加)に増やしたこと,全熱だけではなく顕熱と潜熱を分離してモデル化したことである.次に神戸地下街の通路用空調機の実測を行い,そのデータから発展モデルのパラメータを算出して空調機の数値モデルを造った.実測は決定変数の組み合わせ32種類で行った.モデルによる熱交換量計算値と実測値の誤差二乗和による検証では十分な精度があると考えられた.今後サーマルグリッド運用・運転にこのモデルを適用する場合の,冷温水温度逆算に利用するケースについて更に検証を進める必要がある. 2 学習型負荷予測の開発 空調負荷予測を行う上で,使用人数・使用者種別に伴う人体発熱負荷,必要外気量を処理する外気負荷,あるいは人が利用する小電力負荷は大きな要素である.今期,人流測定実験及び人流予測方法の開発検証を行った.地下街通路に対して人員数予測技術を適用し,実測値と照合した結果,予測アルゴリズムが有効に働くことを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の主要課題であった「空調2次側モデルの開発」については進捗したが,「学習型負荷予測方法の開発」については,人流予測に関しては進捗したものの空調負荷予測全体については,期待したほどの成果を上げられなかった. 「空調2次側モデル開発」については冷温水温度逆算利用した場合の精度についてのもう一段の検証を進める必要がある.検証方法としては,神戸地下街の通路用空調機に適用したべき乗項積型モデルから得られるデータと実データの比較による他,空調機メーカの持つ実験式よりの出力値も参考にしたい.実建物に変温冷水運用を行うためのアルゴリズムにこのモデルを組み入れた時の空調運用不具合リスクを明確にし,そのヘッジ方法を提案したい.またモデルの精度を見極めた上で,複数2次側空調機モデルへの拡張方法を検討することが必要である. 「学習型負荷予測方法の開発」では,地下街通路を対象に人の通行量を1時間単位で予測する手法を実装し,その有用性を確認した.ここから人体発熱量についても推定できると考えている.人体由来以外の空調負荷については,学習手法を検討したものの,影響を与える要素(天候など)の計測データ・推定データ(すなわち学習データ)の準備に想定よりも時間がかかってしまったため,その有用性について確認できていない.
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今後の研究の推進方策 |
「空調機モデル」については,さんちかの空調機に関して温度差項データに関する追加実験を行い,モデルの精度を上げるとともに,べき乗項積型モデルと実測値の比較を行い,モデルの有効性と限界を把握する.また,空調機メーカーの協力を仰いで実験式による計算結果を得,べき乗項積型モデルとの比較を行う.更に複数台空調機を取り扱う場合の,べき乗項積型モデルの適用方法について検討を行う.明らかに複数台空調機の物理モデルは構成する空調機の使われ方によってその特性は変動するので,運用の中で使われ方を学習しながらパラメーターを調整する形態となる.「熱源モデル」について,本研究ではターボ冷凍機を対象として負荷,冷却水温度,冷水温度とCOPの関係を数値モデル化し,準最適化の評価関数の主要素となる冷凍機の消費エネルギー算出を行うものとする.冷熱源の種類・組合せは極めて多様であるが,本研究では熱源モデルはターボ冷凍機に絞って検討する. 「学習型負荷予測」では,例題として年間空調負荷をシミュレーションで生成し,空調負荷に影響を与える項目(外気温・人数など)を入力とした教師データを用いて機械学習手法 の適切な構成を探る. 「最適化手法」においては,前述の熱源・空調機モデルをもとに空調システムのシミュレーション・モデルを構成し,その空調負荷について現実的なシナリオを検討する.そのシナリオに基づき,システム運用について準最適化手法(局所探索法のような簡便で試行錯誤が容易な手法や,差分進化法のように人による調整項目が少ない手法など)を適用し,評価する. 「回路網設計支援」は,サーマルグリッドを適用する複数負荷単位(例えば複数建物)が様々な[負荷量×冷水温度]要求を持つ場合の,配管ルート設定を効率的に行う設計手法の提案と,支援ツールの設計である. 「設計手法の整備」では上記技術要素を通観できるような資料を整備する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
空調機メーカに依頼して空調機性能の実験をする計画であったが,神戸地下街の空調機を実測できる機会に恵まれ,そのデータを利用できたので今年度の外注実験費用が削減できた.同様に空調負荷(人体発熱量)の学習データ収集のため,実証フィールドに計測機器を設置(電気工事など含む)を検討していたが,地下街で十分な人流データを入手することができたため費用が削減できた.反面,人体発熱量以外の空調負荷については,必要な学習データと既存センサの設置・蓄積状況の照合が難航し,センサ追加に使用する予算の執行が十分でなかった.また旅費については他研究旅費との合理的な運用で節約できた.翌年度以降に,今年度成果が不十分であった,モデル検討・負荷予測に関する外注費に充当する予定である.
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