本研究では建築の省エネルギー化投資の価値を一般金融商品と比較可能な形で表現するために、その不確実性を定量的に捉えることを目的としている。本年度は特に運用に伴う不確実性の把握を中心に研究を行った。前年度に開発したエミュレータを使うことで仮想建物の設備運用選手権を開催し、運用に起因する不確実性を定量的に評価した。サーバーにエミュレータを配置し、33組の運用者に仮想的な運用を行わせた。運用の評価は年間のエネルギー消費と快適性で評価され、1年間の計算は概ね現実時間の1日で終了する。各運用者は繰り返し運用改善に取り組むことが可能で、全部で339回の様々な運用が試行された。選手権者はエネルギーを12.1%減らし、快適性を21.0%向上させる運用を考案した。全運用を分析すると、標準偏差は省エネルギー性能が5.9%、快適性が25.0%となった。参加者に提供されたエミュレータの建築躯体の仕様、設備の仕様、執務者行動、気象条件は全く同一条件としたため、このばらつきはハードウェアなどに起因するものではなく、純粋に設備の運用方法によるものである。選手権という形態をとったため、今回の試験には相対的に運用能力が高い者が参加していると推測できることから、このような運用技能の良否による性能の不確実性は、現実の建物ではさらに大きくなると予想される。なお、本選手権を通じて生成された仮想的な運用データやエミュレータはすべてWebで公開し、後続の研究に自由に使えるようにした。
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