研究課題/領域番号 |
18K04463
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
高橋 達 東海大学, 工学部, 教授 (50341475)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 木質バイオマス / 循環 / 地産地消 / エクセルギー / エントロピー |
研究実績の概要 |
まず、都市型の木質バイオマス熱供給の国内初事例である東京都立大井ふ頭中央海浜公園を対象にして、剪定枝利用熱供給と物質循環についてエントロピー・エクセルギー解析を行なった。その結果、以下のことが明らかになった。1)木質バイオマス循環は自然がもつ水循環との入れ子構造により成立している。2)ガスボイラー使用の場合より物エントロピー廃棄量が13.5%に、総エントロピー廃棄量が35.3%に縮小されている。3)トラックを用いたサイト内のバイオマス輸送によるエ クセルギー消費は0.3GJ/yearで、タンカーによるLNG海上輸送の0.6%になる。また剪定枝バイオマスがLNGに代替することによりボイラーでのLNGのエクセルギ ー消費を30%に抑えている。剪定枝利用のサイト内熱供給はエクセルギーの地産地消費を実現している。 次に、1haのスギ林地による建築用材利用・木質燃料活用からなる木質バイオマス循環についてエントロピー解析を行なった結果、以下のことが明らかになった。1) 林地の光合成における物質収支と同量の物質収支となる木質燃料燃焼のサブシステムを含む木質バイオマス循環モデルを仮定することにより、木質バイオマス循環を熱力学的物質循環の解析対象として扱えるようにした。木質バイオマス循環の作動物質の中で、木質バイオマスがもつエントロピーは非常に小さく、拡散性が期待される燃料として活用されることにより光合成原料を大気に供給し、木質バイオマス循環の形成を可能にしている。2) 管理状態「荒廃」の場合、林地における木質バイオマスの絶対エントロピーとしての蓄積量が0.222GJ/Kになる。管理状態の悪い林地では、ある値以上の絶対エントロピーの蓄積になっている。 また、次年度以降に備えて、中国東北地方の住宅における伝統的バイオマス暖房システム「カン」の利用について現地実測調査を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の中で掲げた研究項目は、①木材と鉄・セメントの生産・運用・廃棄に関するエントロピー解析、②各種エクセルギーの貯蔵・生成・消費の特性に着目した木質バイオマスの建材利用と熱利用の評価、の二つである。 このうち①については、木質バイオマス循環を熱力学における作動物質の循環として扱う方法を確立し、そのことに基づき木質バイオマス循環に伴うエントロピー流を解析できるようになった。また、部分的ではあるが、鉄資源の利用に伴うエントロピー変化と木質バイオマスにおけるそれとの比較も行なうことができた。そのため、研究項目①で残る研究課題は、バイオマス循環の熱力学的成立の導出となる。これについては循環を構成するサブシステム単位では、循環の成立条件が林地サブシステムについて見いだされつつある。 研究項目②については、木質バイオマスの利活用に伴う「地産地消」について、都市型の木質バイオマス熱供給の国内初事例である東京都立大井ふ頭中央海浜公園を対象にして「エクセルギーの地産地消費」が確かに実現されていることを定量的に、かつ、明示的にとらえることができた。また、そのなかで適正需要指向型のデザインが資源需要端に留まらず、遡って資源供給側のサブシステム不要なエクセルギー消費を回避することや、システム全体のエクセルギー消費を最適化する大きな手段になることが明らかになった。なお、研究項目①で残る研究課題は、地域エクセルギーの輸送・貯蔵に関する検討である。 以上から初年度の研究で計画した研究課題のかなりの部分を解明しつつあるので、おおむね順調に研究活動が進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の中で掲げた研究項目①木材と鉄・セメントの生産・運用・廃棄に関するエントロピー解析は、熱力学的に見たバイオマス循環の成立条件を導出するための課題である。そのため、初年度の成果に基づきバイオマス循環も閉鎖循環モデルとしてエントロピー流が計算できるようになったことから、循環システム全体とサブシステムのそれぞれについて、例えば、活動状態の良し悪しのレベルを設定し、それに伴う物質流・エネルギー流のデータからエントロピー流を算出すれば、バイオマス循環の熱力学的な成立条件を定量的に把握できるようになると予想する。すでに林地サブシステムについて管理状態別のエントロピー収支や木質バイオマス循環の作動物質におけるエントロピー変化を比較したが、さらに、バイオマス循環の有無ではなく、その状態の良し悪しに関する定量的観察結果を見出し、それとエントロピー流との対応関係について考察を進めるようにする。 研究項目②各種エクセルギーの貯蔵・生成・消費の特性に着目した木質バイオマスの建材利用と熱利用の評価については、初年度の成果として、エクセルギー概念により地域資源の地域における「生成(収穫)」と「消費」とが定量的に、かつ、明示的に扱えるようになったので、これに基づき、さらなる応用発展を検討する。具体的には、日本のような先進国だけでなく、バイオマスを未だ伝統的に活用している開発途上国を対象にして、エクセルギーの地産地消の観点から望ましい方向性について、異なるシステム間でバイオマス熱利用についてエクセルギー消費過程を比較する。エクセルギー解析には、昨年度実施した中国東北地方の住宅における伝統的バイオマス暖房システム「カン」の利用に関する現地実測調査のデータに基づき行ない、エクセルギーの輸送手段が異なるシステムを設定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた建築物総合エネルギー性能計算ソフトBESTの入手が、高等教育機関の場合では無料であることが交付後に判明した。そのため、BEST購入予算が物品費の中で残ることになった。このことから物品費の購入計画を変更し、計画時50万円の物品費のうち約26万円を中国での現地実測調査で必要となる排ガス分析計・熱流センサーや消耗品などにあてるようにした。その残額が24万円になった。 中国での現地実測調査の遂行により、調査旅費を計画時30万円に対して超過額約11万円の約41万円を使用した。また、人件費・謝金が計画時25万円に対して約1万円の超過額、その他は約1万円の残額となった。 以上の結果から、物品費の残額24万円、旅費の超過額11万円、人件費・謝金の超過額1万円、その他の残額1万円を計算すると、24-11-1+1=13万円という次年度使用額が生じることになった。
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