研究課題/領域番号 |
18K04464
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
中野 淳太 東海大学, 工学部, 准教授 (30350482)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 熱的快適域 / 温熱環境適応 / タスク・アンビエント空調 / ZEB |
研究実績の概要 |
昨年度は、過去10年分のタスク・アンビエント空調の国内研究動向について文献調査を行ない、システムの分類、設定温度、利用状況等の整理を行なった。国内で開発されているタスク空調は、天井吹出しタイプ、床吹出しタイプ、什器タイプに分類できる。対流式の割合が圧倒的に高く、放射式は2例のみであった。冷房時のアンビエント域の設定温度は、被験者実験では28~30℃の条件が多く見られたものの、実建物では26~27℃が一般的であった。日本では建築物衛生法のために室温を28℃以下に保つ必要がある。そのため、高い環境調節能力を持たせたタスクユニットが室内環境形成の主となっている事例は見られなかった。近年はアンビエント空調方式として、静穏な気流で均一な温熱環境が形成される放射空調を採用し、個人の補助的な環境調節手段として対流式のタスク空調が選択される事例が多く見られた。アンビエント域環境の大胆な緩和は、建築物衛生法管理基準の見直しがない限り難しい。タスクユニットを主とした空調計画のニーズや実現性についても調査が必要である。 天井吹出しタイプおよび什器タイプのタスク・アンビエント空調の実物件5件を視察し、設計者および管理者へのヒアリングを行なった。タスクユニットの開発にあたり、人工気候室における被験者実験では温冷感や満足感の向上が確認されたものが導入されている。しかし、実際の建物では想定された効果が得られないことがあるとの意見が聞かれた。タスクユニットの操作の煩雑さや期待したほどの効果が得られないこと対する不満があるとのことであった。 海外の研究動向としては、PCS(personal control system)がキーワードとなっている。大がかりなタスクユニットではなく、個人用のファンや電気ストーブと言った家電製品に近いものを用いた環境調節の研究事例が主であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は、以下の手順で進めていくことを計画している。① 国内外の文献調査に基づくタスク・アンビエント領域の環境制御範囲、熱的快適範囲および影響要因の抽出、②タスク空調導入建物の設計者に対するヒアリング、③タスク空調導入建物の視察および管理者に対するヒアリング、④フリーアドレスオフィスにおける滞在場所選択の実態に関する調査、⑤国内オフィスにおける温熱環境適応の実測調査(冷房期、中間期、暖房期)に基づく熱的快適範囲の導出、⑥国内外学会・委員会等を通じた積極的な情報交換。①~③について、タスク・アンビエント空調の国内動向について概ね達成できており、今後も調査事例を充実させていく。また、空調設備に頼らない、オフィスにおける環境調節手法についても調査を進める。④⑤については、まだフリーアドレスオフィスの国内事例が少ないこともあり、調査協力の得られる調査対象建物が決定していない。フリーアドレス制に限定せず、環境適応の自由度の違いという観点で、視野を広げて調査対象を再検討する。⑥については、今年度も国内及び国際学会での学会発表を通じて情報交換を行なう予定である。
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今後の研究の推進方策 |
タスク・アンビエント空調の導入されている建物は、一般と比べて建物のグレードが高い。建築物衛生法基準値の上限である28℃を超えた運用はなく、この上限を超えた温度設定の介入調査は現実的ではない。現在の建築物衛生法管理基準では、測定点を部屋の中央とすることが定められている。しかし、実際に執務者の居る居住域を室内代表点とすれば、タスク空調により同基準を満たし、アンビエント域設定温度の緩和による省エネルギーが可能と考えられる。また、現行基準では温度、湿度、気流速度に対して個別の基準値があるが、PMVやSET*といった総合温熱環境指標を用いることで、少ないエネルギーで従来基準よりも高い水準の快適性を満たせる可能性がある。オフィスを模した人工気候室にて執務状態を再現し、環境適応の自由度を変化させてアンビエント環境緩和幅の拡張の可能性を検討する。
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