研究課題/領域番号 |
18K04466
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
井上 隆 東京理科大学, 理工学部建築学科, 教授 (30151608)
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研究分担者 |
高瀬 幸造 東京理科大学, 理工学部建築学科, 講師 (20739148)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 集合住宅 / エネルギー / 省エネ / 水消費 / COVID-19 / 新型コロナウイルス / 行動変容 |
研究実績の概要 |
今後の家庭部門・住宅分野の省エネルギー化を考えるにあたり、急速に進行しつつある少子化・高齢化に伴う世帯構成・社会構造の変化、温室効果ガスの削減目標値の見直し等、わが国における様々な状況の変化を考慮する必要がある。本研究では、今後の国内の住宅の省エネルギー方策の提案を目的とし、これまで申請者らが継続的に取得している電力・ガス・水道メーターの10分間隔データ(首都圏の電力・ガス併用住宅および全電化集合住宅の約1,000世帯対象)を利用した各世帯のエネルギー消費用途推計を行うとともに、公的統計の個票データも用いることで、世帯属性ごとのエネルギー消費傾向の詳細な分析・省エネ提案を行っている。本年度は、昨年度に引き続き公的統計データの分析を行い、国内の地域ごとの導入設備の割合やそのエネルギー消費傾向などについて分析した。さらに、実測データに基づき、新型コロナウイルス感染拡大防止のためのテレワークの普及や在宅時間の増加等の社会的な状況の変化が、首都圏の集合住宅のエネルギー消費に与えた影響に関する分析を行った。ある全電化集合住宅では、2020年4月から8月にかけての電力・水消費量は、2019年の同時期と比較すると、1日あたり約2割増加していた。特に2020年4月からの緊急事態宣言発令中の平日日中の消費量は、世帯ごとのばらつきが大きいものの、全住戸平均で電力・水ともに約5割と大幅に増加していた。また、電力・水ともにピークとなる時間帯や変動パターンは2019年とは大きく異なっており、日中の在宅人数や活動時間帯の変化、在宅勤務をはじめとする外出自粛といった行動変容の結果が反映されたものと考えられる。なお、別の調査対象となる集合住宅においても緊急事態宣言中に同様の傾向が確認された。5月末に緊急事態宣言が解除された後も、各月でエネルギー・水消費は2019年より増加傾向にあったことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査対象の集合住宅において計測されたデータを活用することで、新型コロナウイルスが首都圏の集合住宅に及ぼした影響について多くの貴重な知見を得て、各種学会発表においては最新情報として報告することができた。ただし、各住戸に設置された計測機材の不調等により、データ回収ができていない住戸も増加しつつあったため、本年度はデータ提供元企業の協力のもとデータ回収方法の見直しを行ったが、大きな改善はしない状況であった。さらに、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点より、現地との調整が難しくなったために、得られたデータのみの分析を行っていた。また同じ理由により昨年度に実施できていた個々の世帯へのアンケート調査についても実施ができず、在宅状況をはじめとした生活変化が電力・ガスといったエネルギーや水消費について、踏み込んだ調査が出来ていない点は課題である。 また、本年度は実住宅での計測データの分析が主となったため、公的統計データの分析についてはあまり進められていない。2021年度中に、新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響が反映された2020年度に実施された環境省・家庭CO2統計データが開示される見込みでコロナ禍におけるエネルギー消費傾向の変化も追うことができるようになると考えられるため、次年度はこれらのデータも用いて包括的な分析を行う必要がある。これらの状況を踏まえて、当初は3か年で終了予定としていた本研究について、さらに1年間の研究期間延長を申請した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年から2021年にかけて新型コロナウイルスの影響は多大なものであり、外出自粛が求められている中で、住宅の在り方は大きく変化した。テレワーク等による在宅時間の増加に伴い、温熱や光環境等の室内環境維持のための暖冷房エネルギーや照明・家電の電力のみならず、宅内での食事やトイレ使用等の回数の増加に伴いエネルギー・水消費の増加があったものと考えられる。しかし、2020年度の間には調査対象の集合住宅において、宅内での生活の変化がエネルギー・水消費に大きな影響を与えていると考えられるデータが取得できているものの、アンケート調査を実施できていないために直接的な影響は示し切れていない。2021年度は、夏期・冬期にアンケートを実施することで、コロナ禍における世帯ごとのエネルギー消費量の増加の原因を明確に示すとともに、省エネ手法について検討を行い、居住者への省エネ提案を行う予定である。これに先立って、計測データ提供元の企業や、集合住宅の管理会社等とは今後の調査実施方法の調整を行い、測定されたデータを収集するためのサーバーのメンテナンス等について完了している。 公的統計データ分析に当たっては、世帯属性ごとのエネルギー消費傾向をより明確に示すことを目的とし、これまで得たデータの他に環境省から最新のデータも入手して、追加検討を行う予定である。新型コロナウイルスの影響に関する分析の他、世帯属性ごとにエネルギー消費のバラツキがどのように生じるのか、またその分布の様子についても分析することを考えている。 以上より明らかとなった住宅のエネルギー消費実態について、得られた結果を取りまとめ、引き続き日本建築学会、空気調和・衛生工学会、エネルギー・資源学会等において成果の発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の研究実施に当たって、新型コロナウイルス感染拡大措置を講じる必要があり、アンケート調査等の実施が年度内に実施できなかった。また、新型コロナウイルスの猛威は依然として収まっていないため、2021年度も引き続き研究を継続して、成果をまとめることとした。実測データを取得している集合住宅においては、新型コロナ感染症対策の家庭におけるエネルギー消費実態への影響を検証するために、省エネ提案とアンケートの実施回数を以前よりも増やすことを計画している他、毎月の測定データを提供いただくためのサーバーメンテナンス費やアンケート実施のための役務費が相当額生じる予定である。また、公的統計も活用することで、新型コロナウイルスがエネルギー消費に与えた影響について、地域や建て方、世帯属性別の分析を行うことも必要であり、適切な予算執行をしながら研究を推進していく。
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