本研究では,視作業中の瞳孔径の変化と主観的眼疲労度や作業継続時間とを比較して,眼疲労度を最も良く反映する瞳孔径の特徴を明らかにし,さらに光環境特性が眼疲労に及ぼす影響を瞳孔径の観察によって評価することを目的としている. 昨年度までに,瞳孔径の大きさが,視作業後で有意に散大することを明らかにした.また,主観的眼疲労度が視作業時間とともに有意に増加したことから,瞳孔径は眼疲労が進むに従ってより散大する可能性を示した.また,光環境特性のうち,照明光の波長分布(分光分布)が眼疲労に及ぼす影響について瞳孔径を用いて検討した結果,高演色に比べて低演色光源での作業がより眼疲労を引き起こしやすい可能性を示した. 本年度は,さらに光環境特性と眼疲労との関係を瞳孔径によって検討するため,照明光の明るさが眼疲労に及ぼす影響について検討した.中照度と高照度照明環境下で視作業を行った際に,瞳孔径,さらにフリッカー値と主観的眼疲労度を測定した.いずれの指標も視作業前よりも視作業後で眼疲労度が高くなったことを示す傾向が見られたが,照度条件による眼疲労への影響の違いについては指標間で統一した結果が得られなかった.しかし,瞳孔径の作業前後での変化は,中照度条件と比較して高照度条件で有意に大きくなった.このことから,照度の高い環境下での視作業は中照度環境下に比べて視覚的負担が高いことが考えられる.また,明るい環境と暗い環境が時間的に入れ替わる環境を取り上げ,明と暗刺激の切り替わり時間の異なる視覚課題を呈示した際の瞳孔径を測定した.明暗切り替わり条件による有意な差は見られなかったが,明暗の切り替わりが速い(15 s)条件と遅い(60 s)条件を比較すると,切り替わりが速い方が瞳孔径がより大きくなる傾向を示した.従って,明と暗とが時間的に速く入れ替わる光環境は視覚的負担が高い可能性が考えられる.
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