研究課題/領域番号 |
18K04474
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研究機関 | 国土技術政策総合研究所 |
研究代表者 |
三木 保弘 国土技術政策総合研究所, 住宅研究部, 室長 (90356014)
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研究分担者 |
山口 秀樹 国土技術政策総合研究所, 建築研究部, 主任研究官 (60411229)
吉澤 望 東京理科大学, 理工学部建築学科, 教授 (40349832)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 複雑な光環境 / 印象評価構造 / 共分散構造分析 / 空間分布指標 / 光のむら / 光の方向性 / 可視化 / 省エネルギー |
研究実績の概要 |
本研究は、空間全体の局所的な光の密度変化を「むら」、空間全体の方位に応じた光の偏りを「方向性」とする着眼から、複雑な光環境の質を明快に評価する新たな空間分布指標の開発を目的としている。具体的には①光の空間分布指標の構築、②光の空間分布指標と光環境の質評価の関係式の導出、③実空間における評価に基づく指標の妥当性検証を行う。 令和元年度は、空間分布指標の検討及び光環境の質の定量的評価構造の導出を相互関係も考慮し具体化した。 まず、空間分布指標は6面照度に基づくこととし、現段階では空間全体の光の量、光の方向性、光のむらとして6方位面の照度をベースに、光の偏在、局所的な方向性と細かな不均一性、それらの数量・位置で構成する案とした。明暗面の構成で、提案される指標と分布、空間印象等の関係が感覚的に把握できる空間分布の表示方法も考案した。 ついで、夜間の実居室の光環境を対象に、行為・印象・知覚についての被験者評価実験を行った。上記の空間分布指標の案を考慮して32条件の異なる光環境を設定、各々20名程度に評価させた。この結果から、探索的因子分析を通じた共分散構造分析で定量的評価構造を導いた。光環境の空間分布の明るさ、暗さ、分布などの知覚は、広がりや面白さ(変化感)といった印象から快適性、落ち着きなどの好ましさの総合評価へとそれぞれ異なる影響度を持って繋がっており、住宅における光環境の質の評価に求められる生活行為を介しても、その評価構造は変化しないことが示された。この中で、知覚としての「光の分布」は、「暗さ」を前提として「明るさ」と「暗さ」が独立し、相互に影響し成り立つことが示された。最終的に上記の6面照度に基づく空間分布指標の確定と、その明暗面の表示に対し大きな根拠を与える点で、重要な知見といえる。その他、オフィス空間(夜間)の被験者評価実験についても住宅との違いを把握するため実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究目的の①空間分布指標の構築、②光の空間分布指標と光環境の質評価の関係式の導出、③実空間における評価に基づく指標の妥当性検証のうち、主に①と②の内容について、具体的に進捗している。 空間分布指標については、測定のし易さ、表示のし易さも考慮した6面照度をベースに、空間全体の光の量・方向性・むらの大きくは3つの考え方に基づく空間分布指標の構成案を開発することができた。さらに、空間分布指標と光環境の質評価の関係式の導出のためには、実空間における多くの条件における被験者評価実験を行い、光環境の空間分布知覚と印象評価、総合評価(印象評価)の関係を定量的に導く必要があり、多くの複雑な光環境が得られる複数の住宅居室で実験を実施することができた。物理的な光環境分布による指標化の前提として、人間がどのように光の空間分布を感じているかを導き、上位の印象評価(生活行為を間に挟む場合も含む)、さらにその上位の総合評価との関係を係数で表した定量的な評価構造図として導くことができた。オフィスについては、住宅の定量的評価構造の知見を受け、夜間ではあるが、生活行為を休憩、思考的な作業などに分けて検討し、現実的にあり得る光環境の分布で雰囲気性が求められる環境を主体に模擬オフィス空間を用いて同様の被験者実験を行うことができた。昼光を含む評価実験については、変動が大きい昼光に対して被験者が評価する時間に、同時に多くの6面照度を取得することが難しいことがわかったため、次年度に昼光も考慮した空間分布指標の導出を補うための代替案としての方策を設定した。以上のように、所期の目的に対し、おおむね順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度であり、光環境の質を評価する空間分布指標を確立し、その妥当性検証も行う必要がある。 本年度において、6面照度という物理的な測光量を想定した空間分布指標の案を作成するとともに、多くの実空間における光環境の空間分布の知覚に基づく定量的な評価構造が得られている。 課題としては、まず、空間分布の知覚と物理的な測光量に基づく空間分布指標の関係づけを明確にして、定量的評価構造に紐付けることであり、被験者評価実験において計測している主要な測光量を基に、6面照度をどのように得るかをまず検討する。計測した反射率や光源の特性等を確定してシミュレーションで補うことで6面照度を導出することを考えている。妥当性については、オフィスも含めて実空間で多くの評価データが得られていることからそれとの関係を詳細に詰めることで検証として位置付ける。 昼光の扱いについては、変動する昼光に対して被験者評価実験が容易ではないことが判明したため、研究計画を変更し、別途、窓から昼光が導入されるオフィスを想定したシミュレーションで測光量を導出し、指標の構築を補完する。さらに360度撮影が可能な小型カメラの輝度計測で6面照度に換算する手法を検討し、これが完成した場合に、次年度、オフィス空間の昼光も含めた評価実験を6面照度の同時計測とあわせて行って補完することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始当初の研究計画の中で、昼光を含むオフィスの光環境について、実験費用の見込みで計上していたところ、室内空間の多数の点における6方向の照度の実測と被験者実験を同時に行うことが困難であることがわかった。したがって、当該年度においては、その実験費用は使用しなかったことから、次年度使用額が生じた。研究計画を変更し、次年度に、全方位カメラによる輝度分布撮影で同時計測が可能となるような実験環境を構築して、補完的な被験者実験を行う費用として充当する。
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