研究課題/領域番号 |
18K04479
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
太幡 英亮 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (00453366)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ワークライフバランス / コワーキングスペース / 子連れ / 親子の距離感 / 社会的包摂 / 建築計画 |
研究実績の概要 |
子育てと仕事の両立を可能にすることは、最低限実現されるべき社会的課題の一つである。しかしこの課題はワークライフバランスの観点から見た時に、単に断片的な保育環境や職場環境の整備だけでは解決できない包括的なものである。即ち①乳幼児期の子どもが親と過ごす時間を最大化しつつ、②その親が社会において有意義に働く事を両立し、③さらにはその「子ども」をも社会的存在として包含しうる社会包摂体をつくる事、これによって初めて、この課題が本質的に解決できるという考えに立脚したとき、一つの解決策として「子連れ利用可能なコワーキングスペース」があげられる。本研究はこのスペースの実社会への設置と、その実証研究を通じて、仕事と子育ての両立を可能にする空間条件、その空間が可能にする新しいライフスタイルや社会包摂体としての可能性などを、社会科学の研究者と連携して建築計画学の側面から明らかにするものである。
これまでの成果は日本建築学会計画系論文集、建築学会大会研究懇談会資料集に報告するとともに、2019年度には建築学会主催にて「子連れの空間学」というテーマでシンポジウムを企画し、子連れ出勤の先導的企業を交えた議論を展開でき「子連れ」という主体で都市・建築・社会を構想するというビジョンが得られた。さらに、一連の研究と社会実装により2019年「キッズデザイン賞」を受賞した。また、2020年度は国際学会にも報告予定である。
本課題開始時に既に設置していた大学内の子連れコワーキングスペースの継続的運用と調査をおこなっているとともに、ある自治体において多世代交流施設を子連れコワーキングの視点を盛り込んで設計し、2018年に運用開始、別の自治体においても子連れコワーキングスペースを設計し、2019年3月以降、活発に運用されるに至っている。これらの運用段階における検証が次の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1、社会的課題の構造と国際的な動向の調査 : 日本建築学会の空間研究小委員会にて「子連れの空間学」というシンポジウムを企画し、2019年6月に開催した。当該分野の関連研究者や企業での実践者と議論を行い、仕事/子育ての社会課題を取り巻く社会制度、保育、家庭、職場、地域における社会的、物理的環境の総体としての構造を捉え直した。特に子ども、大人ではなく「子連れ」という主体で捉えることの意義が議論できた。 2、子連れでの仕事を可能にする空間的要件と運営上の課題の調査 : 子連れで仕事をする空間として、子どもと親の双方が遊びや勉強、仕事に集中でき、かつお互いに安心して過ごせる環境や、複数の親子が共存さらには交流可能な空間についての研究成果の概要を、2019年度日本建築学会大会建築計画部門研究協議会資料に論文を投稿した。また、大学内の子連れコワーキングスペースの運用と調査は継続している。 3、現状のライフスタイルに与える効果と新しいライフスタイルの調査 : 2018年に構築した新しいワークライフスタイルを試みる被験者実験の体制を活かして、新しいライフスタイルとその効果に関する研究を進める予定だったが、対象の方が産休に入ってしまい、産休明けにはパンデミックで復帰できない状況となってしまい、調査が進展しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1、社会的課題の構造と国際的な動向の調査 : 心理学とワークライフバランスの研究者(加藤容子:椙山女学園大学准教授)、女性教育史および男女共同参画に関する実践的研究者(榊原千鶴:名古屋大学男女共同参画室准教授)との連携が十分にとれていないため、情報交換しつつ、国際学会(EBRA)に参加しての議論を今年度の課題とする。 2、子連れでの仕事を可能にする空間的要件と運営上の課題の調査 : 愛知県幸田町に設計した「多世代交流施設(豊坂ほっと館)」(2018年4月開所)に子連れコワーキングスペースを計画したが、子どもの人気が高く児童館としての機能が中心の運用がなされている。同じく岐阜県下呂市に設計した「オーガニックワークプレイス」(2019年2月開所)が、子連れコワーキングスペースとして、様々なイベントやチャレンジショップも併設するなど活発に運用されている。これらの調査を今年度の課題とする。 3、現状のライフスタイルに与える効果と新しいライフスタイルの調査 : 2019年度に想定外の事態により進展させられなかった、ライフスタイル調査について、パンデミックの収束を見計らって開始する。さらに、2018年度に日本建築学会計画系論文集に掲載した論文の続編を執筆する。
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次年度使用額が生じた理由 |
報告に記載した通り、ライフスタイルの実験予定者が産休に入った影響とパンデッミックの影響で若干の未使用額が生じたが、2020年度には、ライフスタイルに関する実証調査を再開予定であるため、当該予算を活用する。
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