2022年度は渡航が可能になったインド・ヴァーラーナシーにて、数年前から始まった再開発計画実施後の都市空間の調査を行った。特に再開発範囲と既存市街地の境界部における複雑な変化を記録した。今後どのような力学のもと境界線が設定されたかを精査し、再開発が既存市街地与えた影響について検討を行う。また、再開発エリアにおける寺院・祠の開発前後の変化について網羅的調査を行った。中規模寺院がモニュメントとして整備される一方で、小規模な祠が多く移転または除却されていることが確認された。今後再開発時およびそれ以前の寺院分布と比較することで、都市のアイデンティに関わる宗教施設の時間的連続性に関する有意義な知見が得られる見込みである。また、ヴァーラーナシーでは3Dカメラを用いた調査が近年困難となったため、代替としてタイの歴史的市街地(華人入植地)を残すソンクラー、タクアパー、プーケットの諸都市を設定し、都市空間の特性と近年の変容に関する調査を行った。また伝統的ショップハウスの3D撮影・計測を実施した。現在、成果の一部をJAR(日本建築学会)に投稿する準備を進めている。 本研究では、アジアの歴史的市街地をフィールドに時間的重層性を形成する空間更新の実態解明とその情報を共有するモデルの構築を試みてきた。歴史的市街の価値を担保する空間的諸特性とその変容については、ヴァーラーナシーと南タイ諸都市を対象に、生活文化や社会構造、開発の影響と関連づけた具体的な成果を挙げることができた。今後は研究期間全体を通した成果をとりまとめ論文として公表していく。情報共有モデル構築については、新型コロナの影響もありワークショップの開催が難しく、3Dモデルの撮影・計測の技術的ノウハウは多く蓄積できたものの、その活用に関しては空間的特徴の分析に用いるにとどまった。情報共有ツールとしての活用の検証は今後の課題としたい。
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