研究課題/領域番号 |
18K04495
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
早田 宰 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (80264597)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 住宅 / 自助 / 住宅政策 / 相互自助住宅プログラム |
研究実績の概要 |
米国における相互自助住宅プログラムは、農村部において経済的に最低限度自立した世帯が住宅を手ごろな価格で入手するために複数世帯からなるグループの協力による自力建設への公的支援をマッチングさせたユニークな制度である。オバマ政権からトランプ政権、そしてバイデン政権への政権交代による変化を考察することが本研究の目的である。 トランプ政権では、2017年発足以後、農村経済は活性化し、雇用は増加した。一方、住宅に関する政府予算を大幅にカットした。住宅都市開発省の予算を17%、農商務省の予算を21%カットした。またコミュニティ開発包括補助金(CDBG)、HOME投資パートナーシップ、Choice Neighborhoodsプログラム、自助住宅所有機会プログラム(SHOP)、米国のホームレスに関する省庁間協議会等の廃止を提案した。その結果、農村部での住宅不足、価格高騰が発生し、世帯あたりの住宅着工数は史上最低となった。 喫緊の住宅ニーズ、特にコロナ禍における困窮に対応するため、農商務省(USDA)の相互自助住宅プログラムには190万ドル(2億600万円)へ投資を決定した。サウスダコタ州やオクラホマ州における相互自助住宅事業への支援である。 バイデン政権は2021年1月発足に際して、住宅は強力で健全なコミュニティを成長させる戦略の重要な部分であり、住宅の原則を掲げた。世帯における住宅コストが収入の30%を超えない、税制控除の頭金への財政補助などを打ち出した。全米農村住宅連合(NRHC)は、農商務省(USDA)の相互自助住宅プログラムの予算増額、賃貸住宅供給支援、低所得者向けの賃貸支援、農業労働者の住居条件の改善、上下水道施設への融資を要請している。 このように米国における相互自助住宅プログラムは農村部における低所得者層に残された住宅政策の最後の選択肢として政権交代を超えて存続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
トランプ政権においては農村における経済と社会のアンバランスが深刻なものとなった。相互自助住宅プログラムの廃止が提案されたが存続された。バイデン政権では住宅困窮状況においていっそう期待される制度として運用されている。この間の相互自助住宅プログラムの運用点のちがい、とくにワークライフバランス、ウエルビーイングや幸福に必要なソーシャルネットワークの開発、環境的および社会的リスクからの家族の保護等について新しい傾向を分析している。アメリカにおける複数の州(ニューヨーク、カリフォルニア、オレゴン、アラスカ、ワシントンなど)における運用、住宅建設の労働時間数や自助住宅グループの規模、それらの決め方についてオンラインインタビューによる調査を計画している。現地での学術調査は、新型コロナウィルス感染症の影響により実施できなかった。そのため事業年度を2022年、1年間延長を申請し、現在最終年の前半である。コロナ禍において住宅困窮者のニーズは高くなり、それに応えるため、感染症対策に配慮しながら各地で事業が推進されたことは当該事業の政策上の役割を明示しており興味深い。ワシントン州キットサップ郡とメイソン郡では44戸の相互自助住宅の建設が計画され、ポートオーチャードでは、メルチャーストリート、アリン、シェルトンなどの場所で10件が進行中であり、現在現地調査を計画、調整中である。関連して、ワシントン大学とワシントン州のシアトルなどピュージェット湾周辺の社会経済の状況について意見交換をおこなった。また、日本との比較研究についても検討をおこなった。日本には目下のところ米国の相互自助住宅と同様のプログラムは存在しないが、類似点が多く比較可能な政策としては、地方への移住・定住促進住宅における地域コミュニティの関与による住宅リノベーション、DIYなどの動きがあげられ、住宅政策における位置づけについて考察した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年5月現在、新型コロナウィルスの感染拡大はつづいているものの、アメリカ合衆国への入国・帰国は、コロナ隔離期間が段階的に短縮され、2022年3月に隔離施設での待機が不要となった。現在、渡航をともなう現地調査を計画中である。2022年夏以後の渡航による調査を実施したいと考えている。現在渡航調査を想定し、調査票の作成、依頼団体、専門家等のリストアップ作業をおこなっている。訪問・現地調査をおこなう対象地域は、研究計画では複数(3地域)を想定しており、予定どおり実施できるか再検討・調整中である。対象地域ごとの訪問期間の回数を少なくする、1回の訪問期間を短縮する、研究補助者を活用した研究情報収集に切り替える、などを検討中である。オンラインで可能な限りのデータ収集、分析をおこなってきた。研究関心については、アメリカの相互自助住宅についての当初の問題仮説、その全体像についてはおおむね概要を把握することができた。現段階の研究到達点における考察をもとに研究とりまとめ、学術雑誌へ論文を投稿した。本テーマは、今後も中長期にわたって研究を継続する予定である。コロナ禍においては、既存文献およびwebベースでの国際比較研究の視点を広げ、イギリスにおけるコミュニティセルフビルド住宅、日本における住宅リノベーションをとりあげ、制度および担い手(非営利住宅団体、セルフビルダー)、支援者(金融セクター)の制度比較の研究をおこなってきた。とくに住宅取得困窮者層への手ごろな価格での住宅供給という視点に加えて、自力建設による事故効力感や幸福感、グループビルドによる良好な近隣コミュニティの構築、社会生活の安定等への影響や効果について考察してゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症で海外学術調査ができなかったため。2022年度アメリカは渡航の隔離施設の措置が不要となったため、2022年度夏以後の渡航調査をおこなう予定である。また研究者の出張旅費、研究補助者の経費を予定している。
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