本研究は、住宅アフォーダビリティ(適切な経済負担で良質な住宅に居住できること)が若年層の家族形成(親世帯からの居住の自立、結婚・パートナーシップ形成、出産・子育てなど)に与える影響について理論的・実証的に明らかにし、家族・人口の諸課題に対応するための住宅政策のあり方について検討するものである。 この目的に沿って、これまでに理論的検討、国際統計データ等の収集・分析、住宅アフォーダビリティと家族形成に関するアンケート調査(日本は東京首都圏、イギリスはロンドン首都圏に居住する若年層を対象)などを実施した。今年度は、昨年度に実施したアンケート調査(イギリス調査)の結果分析を引き続き行うとともに、研究の総まとめとして、ここまでに蓄積したデータを再分析したうえで、住宅政策のあり方についての検討を行った。 日本を含む多くの先進諸国の若年層において、家賃や住宅ローンなどの住居費負担の増大、持ち家率の低下などの傾向がみられた。その背景には公的住宅や社会住宅の供給縮小、公的住宅手当の縮小や厳格化、金融規制緩和や物価高による住宅価格の高騰(高止まり)などの住宅システムの変化がある。またそれらの傾向が、とくに親と同居する若年層の増加と関連している国が多くあったが、その程度には大きな差異がみられた。また、イギリスと比較した日本の特徴として、とくに未婚の若年層において、結婚・パートナーシップ形成や子どもを持つ意欲が低く、それらには住居費の負担感の大きさや居住(面積)水準が関連していた。 現代の日本が抱える家族・人口の諸課題に対して、教育・訓練、雇用、子育て等の政策のみならず、住宅政策として対応することの有効性や意義、すでに結婚している・子どもを持っている者のみならず、未婚の者を含む若年層を対象とした住宅政策の必要性を示したことが本研究の成果である。
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