研究課題/領域番号 |
18K04513
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研究機関 | 岩手県立大学 |
研究代表者 |
倉原 宗孝 岩手県立大学, 総合政策学部, 教授 (70244837)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 市民学習 / まちづくり / 防災と福祉 / 障がい者 / 子ども / 高齢者 / ニュータウン / 逃げ場 |
研究実績の概要 |
本研究では「逃げる」という視点から、防災と福祉の分野を主にしつつ、総合的な生活・地域環境形成に向けたまちづくり及びその市民参加学習を自ら実践・展開しながら、具体の活動・地域モデルの構築と、その経験から新たな計画理論を生み出そうとするものである。 活動で取り扱う具体的ツールとしては、報告者らがこれまで実践経験してきたLODEという手法を用いている。LODEとは、子ども(Little People)、高齢者(Old People)、障がい者(Disabled People)、の視点からの災害回避(Evacuation)である。これは切り口としては防災や福祉だが、対象・内容はハード・ソフトの総合的な生活環境・地域環境の改善・形成を目指す市民参加のまちづくりである。 今年度は、こうした手法の一定の蓄積のもと、これまでにも経験してきた地域での持続展開や新たな地域で各地域状況を読み込んだ活動の展開を進めてきた。その中でツールとしての研鑽と共に、持続性ある一定地域、一定期間を踏まえた活動経緯の考察、あるいは特徴のある状況での実践、等を進めている。また実践活動とは別に、各地の災害現場の実態把握、福祉面から見た逃げ場づくりの新しい組織・活動づくりも模索している。 LODE実践の具体の現場としては、従来から取り組んでいる伊丹市(小学校区、高層マンション)、広島市(子供を対象にした学習会)等に加え、新たに多摩市(ニュータウンの今日的課題を持つ複数地区)や松坂市(特に障害を持つ子供の家族)など独自のテーマを持ったモデル地域の広がりが生まれている。また家庭環境に問題を抱える青少年の逃げ場づくりや実態検討として広島市、沖縄県などで地元メンバーと新たな活動とその考察を進め始めている。災害現場については、東日本大震災と共に、その後発生した災害(熊本地震、九州北部豪雨、等)のその後の様子を持続観察してきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LODE手法を用いた実践活動についは、上記のようにこれまでも経験してきている各地区と共に、新規の対象地も生まれ、具体の現場およびテーマの多様性が順調に広がりと進行を見せている。特にこれまで展開が難しかった障がい者分野については、松坂市において地元メンバー(父子の会)との協力のもと、学習段階から市民主体の事業展開(障害を持つ当事者や家族の逃げ場づくりと市民事業立ち上げの検討など)に向けた機運・行動が生まれてきていることは注目される。またニュータウンでの各地実践(多摩市)においては、地域性は同じくしつつ、高齢者、子供、コミュニティとそれぞれ独自の切り口から取り組みが進められ、モデル構築と共に、比較・分析の対象としても興味深い活動が進められている。 また上記とは別に、逃げるという視点から、専門的な防災・福祉の分野を超えて、各地の新しいテーマによる市民参加・協働の活動の芽も生まれてきており、例えば沖縄における生活弱者・福祉問題のもと弱者の逃げ場であり新たなまちづくり活動としての動きを形成しつつある。あるいは広島市においても、既存の教育・社会制度から逸脱した人々の積極的逃げ場としての事業運営を地元関係者と形成しつつある。 これらの動き、活動を拡充する上でも、関連する各地の情報収集も進めており、また状況を見ながら、上記を含めた具体の活動に情報を反映させながら、より有効な取り組みに向かっているところである。 こうした活動・調査の経験・蓄積のもと、その都度、逃げるの視点から見た新たな計画理論の構築に向けた情報分析、考察を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、各地において地元関係者や研究協力者からの協力を得ながら順調な活動を進めてきた。この取り組みを具体の活動として引き続き展開していく予定である。 市民学習としては一定の方向性は見定められつつあるが、一方でそれを具体のまちづくり活動に育成していくかが今後の課題でもあろう。勿論、学習段階とは異なり具体のまちづくり活動に向かう上では一定の期間が必要であり、本研究期間を超えた展開が求められるが、その上で本研究期間における成果としてまちづくり活動を生み出していくこと、またその評価・分析に向かうことを目指したい。 その上では、これまで取り扱いが難しかった障害分野において新たな独自のイベントと共に事業化など新たな動きが生まれていることは重要と考える。また問題を持つ青少年・家族たちの逃げ場づくりの組織・活動形成も生まれており注目される。こうした活動をうまく展開していくとともに、その経過を読み取った分析・評価を進めたい。 一方で、「逃げる」という視点からの理論構築するための情報をさらに収集していく必要がある。現在、特に活動展開に際して地元関係者との調整に協力いただいている各地の社会福祉協議会の存在は有効で、その実態・考察と共に、社協との繋がりの中で既存町内会・民生児童委員など各組織・活動の情報収集を進めることも意図していく。 これらをもとに最終年度のまとめに向かう予定だが、2年度目にあたる本年においてもこの分析・考察に向けた基礎部分を手掛けていきたい。さらに最終年度における各地を結ぶムーブメント形成に向けて、この段階からタイミングをみながら地元関係者への協力や仕組みづくりを意識して投げかけていこうと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究協力者の好意・協力により、特に人件費・謝金等を経費節約できた。一方で具体の活動対象は本年度はじめ次年度以降もさらに増えることが見込まれ、そのための旅費はさらに必要になる。そのためには今年度生じた金額を翌年度分として使用計画予定である。
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