最終年度は伊仏国境斜面集落タンドと塩の道集落への現地調査を実施した。タンド周辺のメルヴェイユ渓谷では堆積した細砂が一気に固まってできた砂岩と泥岩が顕著である。1388年にはサヴォイア家からの独立を保持し、ピエモンテ公国から沿岸までの直通路を妨げてきた。1593年、ピエモンテと沿岸部を繋ぐ旧街道改修工事がサヴォイア侯爵シャルル・エマニュエル1世によって開始され、以来この「塩の道」は常に維持され、整備されてきた。 タンドは斜面地形の頂上部分に砦と教会を据え、等高線に沿った道が斜面に住居群が立ち並ぶ。住居同士はポンテで支え合い、集落内通路は建物の下部や内部を通過する、極めて共有性の高い街路構成になっている。テンダとラ・ブリーグを繋ぐ街道は、砂岩と泥岩による切り立った断崖沿いにあり、途中にはサンタンナ小礼拝堂や修道院などが残り、宗教施設に支えられてきた街道と交流の証となっている。細い渓谷における生業は街道における宿場的役割が強く、斜面の土地利用は宿場と住居群である。 期間全体を通じて、斜面集落の地形と住居群の空間的特質を明らかにすることを試みてきた。斜面集落の空間構成において①いかに平場を獲得するか、②斜面の岩盤をいかに建築構造に生かすか、の2点が重要であることが明らかになった。調査を通じて、石灰岩が主体となる斜面集落は、平場の獲得が比較的容易で、住居群が岩盤に寄りかかりながら構築されており、一方比較的砂岩、泥岩が主体である地域では、平場の獲得が困難で、建物同士が密着して切り立つ斜面に張り付くように集落が形成されていた。本研究を通じて斜面地形の地質条件と集落形成の相関関係が顕著であることが確認できたことは大きな成果と言える。地球上に多様に存在するにも関わらず、「斜面集落」に関する研究はごく一部であり、今後さらに斜面集落の空間、社会、文化との関係を読み解いていく必要がある。
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