研究課題/領域番号 |
18K04534
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
松田 剛佐 京都工芸繊維大学, デザイン・建築学系, 助教 (20293988)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 丹波材林業 / 大堰川筏 / 禁裏貢納材 / 在郷材木商人 / 地方市場 / 商人材流通 / 地主的林業 / 筏問屋 |
研究実績の概要 |
研究対象となりうる膨大な史料を扱う指針を得るべく、今年度は、これまでの科研による研究の成果である、京都の丹波材林業の流通拠点であった嵯峨に関する知見に立脚し、より広い視野を得るべく大堰川に着目し、先行研究及び関連する周辺領域の既往研究を渉猟することで、大堰川の流通機構の全体像を描いた。 即ち、古代の禁裏貢納材にはじまり、近世に商人材流通が発展した大堰川の木材、即ち丹波材の流通機構は、生産(山方=在郷材木商人=筏荷主)と、流通(筏問屋=運材業者)と、市場(三か所材木市場=地方市場)で構成されたが、所謂元禄豪商の様な都市商人が進出することはなく、産地の在郷材木商人が運材業者と地方市場を支配し続けた点が、丹波材流通機構の本質的な特徴であった。 具体的には、享保から寛保年間に及ぶ争論を経て、山方が地方市場の嵯峨・桂に出店し、材木市場を支配していったことに象徴されている。また、地方市場である嵯峨・桂・梅津の三か所材木市場には近世を通じて大問屋が発生しておらず、これも丹波材のみを扱うという地域性に起因する丹波材流通機構の特徴を示している。この様な特殊性を生んだ要因として、山方が生産手段たる山林を共有又は私有で所持していたこと、消費地の洛中が、産地である山方に近接していた為、流通業者の地位が低下されやすい傾向にあったことが挙げられる。とはいえ、都市の商人資本の発展が、丹波材林業を発展に導いたのも事実であり、その様な都市経済活動への応答として、地元商人にも金融活動を行う者もあらわれていた。 以上の様に、丹波材流通機構は、生産地と消費地が近接し、他地域の商品が干渉しないことによる、都市商業資本の独占のない、地主的林業形態を根幹としたシステムであった。 次年度は、今回得られた知見によって、丹波材流通機構に関する史料の内、最も支配的な立場にあった山方に関係するものから、重点的に調査研究を行う計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画していた、木曽・飛騨への出張調査日程を組むのが困難であったため、今年度は2021年度に予定していた、近世京都の木材流通の研究に先ずは着手した。尚以て研究対象の候補となる史料の数が膨大なため、着手の糸口を探るべく、先行研究の豊富な丹波材流通に焦点を合わせた。しかし、当初の予想通り、建築材料としての木材の具体的(規格と生産・流通・消費の数量)な先行研究は見つからなかった。この様な困難な状況の中で、史料探索の方針決定への手掛かりを尋ねて、大堰川筏を中心とした丹波材流通機構の変遷を、地域史や経済史、村落研究史の既往研究に広くあたることに時間を取られてしまった。しかし、その成果として、丹波材流通の主導権は産地にあるという、地域特有の特殊性を発見することが出来た。また、本研究の中心視座である、建築材料としての、木材の規格と生産・流通・消費の数量といった木材の具体性に重点を置いた研究の貴重性も、認識することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果として、丹波材流通の主導権は産地にあるという、地域特有の特殊性と、建築材料としての、木材の規格と生産・流通・消費の数量といった具体性に重点を置いた研究の貴重性を再確認することが出来た。これによって、膨大な史料調査への糸口を得たので、次年度は、丹波黒田村史料や丹波山国荘史料をはじめ、大堰川筏に関する史料を、山方の文書を中心にしつつ、木材生産状況の実態の具体性をキーワードに、京都府立京都学・歴彩館や京都市歴史資料館等で史料調査を行うものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に予定していた、木曽・飛騨林業の史料調査のための出張がかなわなかったため、旅費相当分として、残額分の、次年度使用額が生じた。翌年度においては、当初の研究予定通りに、史料調査旅費として使用する計画である。
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