研究課題/領域番号 |
18K04539
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
箕浦 永子 九州大学, 人間環境学研究院, 助教 (70567338)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 都市再編 / 都市整備 / インフラ / 公共事業 / 民間 / 商会 / 中華民国期 / 近代化 |
研究実績の概要 |
本研究は、清末民国期において国家や地方政府が公共事業として推進する「伝統都市の近代的再編」に対して、民間の商業団体である「商会」がいかに関与し、どのような役割を担っていたのか、蘇州・上海・天津を例に解明することを目的としている。令和3年度は、これまでの研究成果を論文にまとめることに努めた。 上海について、「中華民国期の上海市工務局による既存道路の整備事業に関する研究-旧上海県城内外の道路整備における土地収用に着目して-」を日本都市計画学会の都市計画論文集に発表した。上海市工務局は、既存道路の拡幅にあたり土地を収用するために土地所有者に対して補償金を給付したが、その財源として事業対象道路の受益者より徴収費を納付させる方法を取っていたことを明らかにした。これは上海租界でも用いられていた手法であり、欧米由来の近代都市計画の受容を示す一例と考えられた。また、「清末民国期の儒仏道と都市再編-上海県城を事例として-」を日本建築学会建築歴史・意匠委員会都市史小委員会の2021年度ラウンドテーブルにおいて発表した。上海市工務局が伝統的都市空間を近代的に再編しようとする計画や実施のなかで、儒教・仏教・道教に関わる建物および境内がどのように扱われたのか、上海県城を対象として読み解いた。また、上海を対象としたこれまでの個別の研究成果をもとに、「〈地〉をめぐる社会と空間-近代上海を素材として-」を九州大学人社系協働研究・教育コモンズの2021年度オムニバスセッションにおいて発表した。ここでの整理によって、上海の近代都市史を総合的に解釈する目途が立ったと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、①商会文書の史料集成による近代的都市再編に関する事象の解読、②商会文書から読み解いた事象をもとに客観的関係史料との照合・検証・考察、③蘇州・上海・天津の近代的都市再編の比較考察、の作業を通して解明することとしている。 刊行されている商会文書は当該都市の档案館が監修することが多いが、編集方針が統一されているわけではないため同様の情報を得られないこともあり、研究の観点を工夫して商会文書と関連史料を複数用いて読み説くことで解明に当たってきた。蘇州と上海については、この方法で順調に研究が進み成果を論文にまとめ発表してきている。蘇州については、本研究課題の着想に至った既往研究をもとに発展的に研究を進めてきた。特に、国民政府が推進している新生活運動の実施にあたり、商会が協力的に参画しており、これによって公共空間の清掃が行き届き都市環境が良くなったことは興味深い発見であった。この成果をもとに、他都市における新生活運動の動向にも着目している。上海については、上海市工務局による公共事業、道路整備にともなう土地収用、公共事業における宗教の取扱など、様々な観点から読み解き研究論文を発表してきた。現在は、城壁撤去の観点から解明を進めている。やや遅れているのは天津についての解明であり、新型コロナウィルス感染症の流行により現地へ史料調査に出かけられないことと、刊行された書籍に有意義なものが乏しいことが影響しているのが要因である。③蘇州・上海・天津の近代的都市再編の比較考察を行うために、天津に関する解明を推進していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
蘇州と上海は概ね研究を完了しているため、やや遅れている天津についての解明を推進する。天津商会文書に関するこれまでの読み取りから、市内電車の開通における商会の関与に着目している。市内電車は天津租界にも延伸しており、沿線上の地域社会として商会や租界の関与に着目しながら近代的都市再編の一端を読み解いていく。なお、市内電車の路線には城壁を撤去した跡を用いており、これは上海も同様であった。城壁撤去については、都市によって市民の賛否の感情が異なっていることが新聞『申報』の記事の読み取りからわかってきており、他都市における城壁撤去と市内電車の開通についても解明を進めたいと考えている。 一方で、近年、清末民国期の商会文書の翻刻版を刊行する都市が増えてきており、これまでに寧波や紹興の商会文書を購入してきた。これらの他都市についても読み取りを進め、本研究課題の主たる対象である蘇州・上海・天津との比較考察も行いたいと考えている。 以上により、令和4年度で本研究課題を完了することを目指して研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
中国天津への調査旅費として残してきた研究費を、令和3年度は研究成果発表のための投稿料・掲載料などに充ててきた。令和3年度までに掲載が間に合わないものもあったため、さらに1年延長させていただいた。令和4年度も新型コロナウィルス感染症の流行が収束する見込みが無いため、引き続き研究成果の発表のための投稿料・掲載料に充てていくこととする。
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