本研究は、清末民国期において国家や地方政府が公共事業として推進する「伝統都市の近代的再編」に対して、民間の商業団体である「商会」がいかに関与し、どのような役割を担っていたのか、蘇州・上海・天津を例に解明することを目的としている。 令和4年度は、これまでの研究成果を論文にまとめることに努めた。上海について「中華民国期の上海市政下における分区計画に関する研究-工業区における産業集積と労働者住宅に着目して-」(日本建築学会計画系論文集)を発表し、上海に近代産業が展開するなかで欧米由来の近代都市計画を参照した近代的都市再編が行われたことを読み説いた。そして、上海についてこれまでに発表してきたいくつかの論文をもとに総合的に解釈することを試み、「清末民国期上海における複合的空間構造-県城・租界・周縁-」と題して東京理科大学大学院にて講演を行い、また論文「近代上海の“CHINESE CITY”―清末民国期上海県城における薄れゆく伝統的空間理念―」をまとめた。清末民国期の上海は、県城の外で繰り広げられる欧米の文化や技術に影響を受けたという外的な要因と、清末の国家による中体西洋論や民国期の市政府下の工務局による近代化施策という内的な要因によって、伝統的空間から近代的空間へと変容していったと解釈することができた。これらの成果発表に加え、和文論文1編と英文論文2編をまとめており投稿を控えている。 本研究では、蘇州・上海・天津を例に、民間の商業団体である「商会」が「伝統都市の近代的再編」に対していかに関与しどのような役割を担っていたのかを解明することを進めてきた。商会資料を紐解くことにより、都市再編に関する個別の事業に関して意見し協議し支援していたことを明らかにすることができ、中国近代都市史において新たな知見を示すことができた。
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