研究課題/領域番号 |
18K04542
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
谷 直樹 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 名誉教授 (40159025)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 茶室起こし絵図 / 中井家 / 建築絵図 |
研究実績の概要 |
江戸時代に京都大工頭を世襲した中井家に伝来する重要文化財「大工頭中井家関係資料」(以下、中井家本と称する)5195点の中に、158点の数寄屋関係絵図があり、そのうち45点が「茶室起こし絵図」である。 中井家本は、①京都大工頭の家に伝来すること、②一部は製作年代や注文者が判明すること、③現地調査をした野帳が一部残っていること、④中井役所の棟梁が起こし絵図の製作に関与していること、⑤保存修理を行っている過程で製作技術を示すデータが蓄積されていること、⑥初代から3代までの中井家の当主(正清、正侶、正知)が茶人としても名を残していることなど、他の茶室起こし絵図にはない貴重な資料と考えられる。 本研究の初年度には、以下の知見が得られた。①平成30年度の修復作品である「高台寺時雨亭起こし絵図」について、修理工房の坂田墨珠堂に出向いて、解体中の詳細な調書作成と細部の写真撮影を行い、製作当初の姿を復元することができた。②平成28年度に修復した茶室起こし絵図7組の修理記録をもとに、修理前の状況、修理中の痕跡の確認、位置の特定、貼り戻しの状況を、実物資料に即して再確認した。例えば「二畳囲建地割」の場合、修理前はすべて台紙から外れていたが、台紙の区画線、糊跡、虫損痕等を根拠に位置の特定を行い、その整合性を確認した上で皺や擦れを伸ばし、台紙に貼り戻し、起こし絵図として立体的に復元したことを確認した。③中井家本の茶室起こし絵図に残っている多数の針穴の位置を確認し、調書を作成した。これは中井家が複製品を製作する際に針穴で印をつけた跡と考えられ、他の起こし絵図との比較の際に有効である。④「大工頭中井家関係資料」の中から、茶室起こし絵図の注文や製作過程を示す文献を検索し、その資料をまとめた。⑤関連資料として、明治年間に作成された新出の旧中西家本「茶室起こし絵図」を整理してリスト化し、詳細な写真撮影を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度に修理を行った中井家本の茶室起こし絵図の修理記録の精査が残ったので、次年度に延ばした。また、茶室起こし絵図の収集は旧中西家本にとどまり、中井家本に近いと考えられる松平旧蔵本との比較検討も次年度以降に延ばした。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度で中井家本「茶室起こし絵図」の修復が一応終了し、全作品が大阪市立住まいのミュージアム(大阪くらしの今昔館)の収蔵庫に返却されてきた。これを機に、実物資料を観察しながら、起こし絵図の特徴や製作技法の研究を深めたい。特に、平成29年度の修理作品を集中的に行うこととする。また、他の起こし絵図との比較研究を行うための準備作業を行いたい。 さらに、予算的に可能であれば、年度末(2020年3月)に「茶室起こし絵図」を含む中井家の絵図を公開する展覧会を大阪市立住まいのミュージアムの企画展示室で開催し、図録の編集・製作、資料展示の準備を考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は資料である「茶室起こし絵図」の修復前後の写真撮影に時間と予算がかかった。そのため、そのデータを整理するパソコン等の購入が今年度にずれ込んでいる。また、今年度は、データの観察や整理のためのアルバイト雇用、修復後の起こし絵図の細部の拡大写真の撮影など必要になるので、これらの作業に重点的に研究予算を使いたい。
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