本研究は、先史~古代建築に用いられたゴヒラ材(五平材、断面長方形の材)の事例を、古代建築、発掘遺構、考古遺物、出土部材、絵画・文献資料などから広く収集し、その使用箇所や部材的特徴を明らかにするとともに、継手・仕口を含む構法的特徴や建物構造の復元的検討を通して、ゴヒラ材使用が果たした歴史的意義の解明を目的とする。 最終年度にあたる本年度も、(1)ゴヒラ材に関する建築遺構の調査、(2)各種報告書・文献史料・絵図資料・考古遺物などにみられるゴヒラ材の事例収集およびその検討、の2点を継続するとともに、最終的なまとめを行った。 (1)では、悉皆調査の一環として、登呂遺跡、富貴寺、功山寺、正福寺、円覚寺、清白寺、大善寺、長保寺、善福院などを踏査し、ゴヒラ材およびゴヒラ使いの方法と、禅宗様建築をはじめとする、その後の時代への広がりについて確認した。特に、登呂遺跡の復元建築では台輪や梁などの多くの場所でゴヒラ材をゴヒラ使いとする例が確認できるのに対し、禅宗様建築ではほぼ台輪に限定されることから、その頃には構造的な役割が縮小するとともに形骸化し、あるいは装飾的なものへと変化したことが予想された。このことはゴヒラ使いを構造的に用いる手法が時代的に限定されるものであったことを示しているように思われる。 (2)では、横架材としてのゴヒラ材とゴヒラ使いの特徴を探るために、中世禅宗様建築にみられる台輪に注目し、事例を広く収集するとともに、断面形状についての検討を行った。一例として、永保寺開山堂内陣身舎の台輪はゴヒラ比=3.4で、上からの荷重を支えるという意味で類似する法隆寺金堂上層の柱盤がゴヒラ比=1.2であるのに比べると、かなり扁平であることがわかる。このような数値の差はそれぞれの由来・出自を考える際に重要になると思われる。
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