研究課題/領域番号 |
18K04558
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中谷 辰爾 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00382234)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 液体ロケットエンジン / 燃焼振動 / モード解析 / POD / DMD |
研究実績の概要 |
ピントル型噴射器はシンプルな構造で燃焼安定性に優れており,ロケットの信頼性向上,低コスト化および再使用化に対して非常に有効である.一方で,ロケットエンジン燃焼器の燃焼効率の向上が必要であるのに加え,熱音響振動を伴う燃焼不安定性も観察されている.本研究では,エタノール/LOxを推進剤とするピントル型噴射器を有するロケットエンジンモデル燃焼器内において,振動燃焼現象に着目し実験を実施した.可視化燃焼器および非可視化メタル燃焼器において,スリットタイプおよびスポークタイプのピントル型噴射器を使用し燃焼させ,高速圧力データ測定,高速度CH*化学発光測定および分光計測を実施した. スリット型噴射器を用いた燃焼試験において,振動燃焼から安定燃焼への遷移あるいは安定燃焼から振動燃焼への遷移が観察された.得られた高速度カメラ画像と圧力データに時系列データ解析を実施し,燃焼室内に観察される現象のモード分解を実施した.圧力のウェーブレット変換結果およびガボールフィルタを適応した動的モード分解結果の両方において,推進剤供給系に依存する周波数および燃焼室長さ方向の音響振動を観察した.画像ベース診断結果から燃焼室内で観察される周波数現象を示すことができた. スポーク型噴射器を用いた燃焼試験においても同様の測定を実施したが,始動時の強い圧力スパイクの発生により,可視化燃焼器および圧力センサを破壊したため同様のデータは取得できなかった.しかしながら,メタル燃焼器を用いた計測においては,スリット型噴射器で観察されたような遷移現象は観察されなかった.また,変動圧力の大きさにもこれらの二つのインジェクタ間において差があった.スポーク型噴射器のスポーク数やブロッケージ比をパラメトリックに変化させて実験を実施した.局所運動量比と燃焼効率の関係を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究ではエタノールおよびLOxを用いたロケットエンジンモデル燃焼器の燃焼試験を行い,ロケットエンジンモデル燃焼器内で観察される現象を圧力センサデータおよび高速度カメラで測定した化学発光画像に基づき解析を行う.そのため,水冷式のピエゾ圧力センサおよび可視化燃焼器を使用した計測が必要である.昨年度の一回目の実験において,スリット型噴射器からスポーク型噴射器に変更した最初の試験で,燃焼器始動時に30MPa程度の強い圧力スパイクが発生し可視化燃焼器およびピエゾ圧力センサなどのセンサ系が破壊された.高応答で燃焼変動をとらえる必要があるため,自動車用エンジンに使用される圧力センサは面一で設置する必要があるが,ロケットエンジンの熱負荷と圧力に耐えることができなかった.実験の性質上実施できる期間が限定されるの加え,これらの可視化燃焼器やセンサの交換には長期の納期を必要とし,可視化実験を実施することができなかった.圧力スパイクを発生させないように点火系を改善し,燃焼器を起動させるシークエンスを再構築する必要がある.一方で,スリット型噴射器においては,燃焼遷移現象も含めデータを速てすることができた.また,メタル燃焼器を使用したスポーク型噴射器を使用した燃焼試験についてはデータを取得することができた.圧力波形などにおいてスポーク型噴射器とスリット型噴射器の違いが確認されており,今後スポーク型噴射器の燃焼挙動を可視化することで詳細に違いを明らかにしていく.
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今後の研究の推進方策 |
今年度も前年度に引き続き,エタノール/LOxを推進剤とするピントル型噴射器をもつロケットエンジンモデル燃焼器の燃焼試験を実施する.昨年度取得できなかったスポーク型噴射器を用いた可視化燃焼試験を最優先で実施し,高速度カメラを使用して,CH*化学発光あるいはOH化学発光画像を取得する.可視化燃焼器や圧力センサの破損を避けるため,実験シークエンスを再構築する.スリット型噴射器とスポーク型噴射器の燃焼特性の違いを明確にするため,燃焼試験以外において噴射器の微粒化特性を明らかにする.水などを使用し,スリット/スリット衝突,スリット/スポーク衝突を大気圧環境下で実施し,全運動量比や局所運動量比の違いによる噴霧分布および液滴径分布特性を調べ,燃焼効率や燃焼安定性の違いについて考える. 可視化燃焼器およびメタル燃焼器を用いた試験においては,燃焼不安定性の開始やメカニズムを明らかにするため,圧力やCH*化学発光の時系列データに対してマルチフラクタル解析や特異スペクトル解析を実施する.可視化燃焼器データに対しては,同時にスパース推定手法を用いた線形およびカーネル法に基づく非線形動的モード分解手法を応用することで卓越周波数を明確にし,関連する燃焼モードを示す.燃焼不安定性の発生メカニズムをデータ駆動型アプローチにより明らかにする. アルミ粒子を加えたエタノール燃焼の燃焼メカニズムに関しては,大気圧における液滴燃焼試験および噴霧燃焼試験を実施する.液滴燃焼によりパッフィングなどの非定常燃焼挙動を調べた後,噴霧バーナに応用することで,燃焼特性を明らかにする.アルミ粒子を含む非定常燃焼挙動を単純な燃焼場において調べた後,高温高圧力におけるロケットエンジン環境における燃焼試験を実施する.以上に基づき,安定で高性能なロケットエンジン燃焼に必要な知見の獲得を目指す.
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