研究課題/領域番号 |
18K04575
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
村田 裕幸 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (30415806)
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研究分担者 |
北原 辰巳 九州大学, 工学研究院, 准教授 (50234266)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アルカリ電解質型燃料電池(AFC) / 船体運動 / フラッディング / 電気化学インピーダンス法 |
研究実績の概要 |
本研究は,固体高分子形燃料電池(PEFC)よりも性能的にも経済的にも優れており,移動体の動力源として有望であるアルカリ型燃料電池(AFC)を船舶に適用するため,その際の検討課題である,①発電に伴う生成水によるAFCセルにおける触媒層の細孔や流路の閉塞による反応ガスの供給阻害(フラッディング)の発生,②電解液循環システムからの電解液の漏洩に及ぼす船体運動の影響について実験的に明らかにすること,さらに③電気化学インピーダンス法によってAFCセルにおける各種損失をミクロな観点から評価した上で,船体運動が及ぼす影響について明らかにすることを目的とする. 今年度は,昨年製作したAFCセルに水素側,空気側の供給・制御装置,アルカリ電解液供給系,及び計測装置を組み込んでAFCシステム実験装置を構築し,正立状態で出力試験を実施した.AFCの電解質膜は多孔質膜にアルカリ電解液を含侵させたものであるため,PEFCに比べると取り扱いが難しく,多孔質膜表面に滲出してくる電解液を適切に除去することが必要になる.一方,発電に伴って発生する生成水も多孔質膜表面に生成するため,AFCにおける適切な生成水の除去(水管理)は,多孔質膜表面における液滴の適切な除去という上記の操作と同一になる.多孔質膜表面に付着した液滴は,多孔質膜に接して流れる水素,空気の動圧によって除去することになるが,水素・空気の流量は電池出力により決まっているため,液滴除去のため自由に動圧を変化させることはできない.このため,今年度の実験では流量の少ない水素側の多孔質膜表面に滲出してくる電解液を適切に除去することができず,期待した電池出力は達成できなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
AFCは固体高分子形燃料電池とは異なり電解質が液体で,多孔質膜にアルカリ電解液を含侵させたものを電解質膜としている.電解質膜は,AFCセル内に供給される酸素と水素の流路を分離する役割とOH-イオンを通過させる役割を持つ. 電解質が液体であるため,他の燃料電池と比べて取り扱いが難しく,電解液の量が少ないとガス流路の分離ができず,電解液の量が多いと多孔質膜が保持できなかった電解液がガス流路に漏れ出てしまい,ガスが接触する電極の面積を減少させ,発電能力を低下させる恐れがある.そのため,ガス流路の分離ができるよう電解液を多孔質膜で保持しながら,多孔質膜から漏れ出てくる電解液がガス流路に滞留しないように調整する必要がある. 実験では,多孔質の電解質膜からガス流路に漏れて出てくる電解液を,供給するガスの動圧によりガス流路からパージするように努めたが,流量の少ない水素側ガス流路への電解液の漏出・滞留を阻止することは困難で,電解液の滞留により電極反応面積は時間の経過と共に減少していった.このため,セル電圧(OCV)も約0.2Vと非常に低い値に留まった. 一方,九大ではアルカリ電解液への二酸化炭素混入に着目し,初期状態の電解液成分である水酸化カリウム溶液と二酸化炭素混入による生成物である炭酸カリウムとの混合比を変化させて,セル電圧に及ぼす影響について実験的に検討し,炭酸カリウムの混合比が高いほどセル電圧が低いことを確認した.なお,九大のセルでは電極触媒をオリジナルのマンガンとニッケルから貴金属に変えることで,セル電圧(OCV)1Vを達成している.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により,AFCでは電解質膜からの電解液の漏出制御がAFCの性能維持のために重要であり,困難なことが明らかになった.アルカリ型燃料電池(AFC)を船舶に適用するための検討課題について解明する,という本研究の本来の目的からすれば,電解質膜からの電解液の漏出制御は重要な研究課題であり,当初想定していたアルカリ電解液循環システムからの電解液漏洩という課題はそれに比べると重要度は低く,机上での検討で目的を達成できると判断される.そのため,今後は当初の研究計画を変更し,AFCセルの電解質膜からの電解液の漏出制御,及びそれに及ぼす船体運動の影響について目的を絞って実験的研究を進めることにする. 前述の水素側ガス流路への電解液の漏出・滞留に対しては,不活性ガスである窒素を水素に混入させて流量を増加させることにより動圧を増大させるなどの対策を採ることにする.また,九大の研究成果に鑑み,電極触媒を従来のマンガンとニッケルから貴金属に変えることによりセル電圧の向上を図ることにする. 今年度は正立状態で出力試験を行ったが,電解質膜からの液滴の除去は重力の作用方向によっても影響を受ける.このため,正立状態における出力試験の終了後は,定傾斜状態で出力試験を実施して船体運動の及ぼす影響について明らかにする予定である.
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