研究課題/領域番号 |
18K04587
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研究機関 | 弓削商船高等専門学校 |
研究代表者 |
村上 知弘 弓削商船高等専門学校, 商船学科, 教授 (60280476)
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研究分担者 |
池田 真吾 弓削商船高等専門学校, 商船学科, 助教 (00749707)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高分子ゲル / 潤滑剤 / VGP / 環境配慮型 |
研究実績の概要 |
海洋環境問題は、世界共通の認識となっており規制も年々強化されている。船舶に関してアメリカの環境庁(EPA)が定める汚濁物質防止削減制度で船舶の航行におけるオイルに関する偶発的な流失を規制している。特に船舶入港規制(Vessel General Permit: VGP)では「環境に配慮した潤滑油」の使用を義務づけている。2013年12月より「アメリカに入港するすべての船舶操船社は海水に接するオイルすべての機器に環境に配慮した潤滑油を使用しなければならない」とされた。しかしながら潤滑油の船舶機関室での使用は陸上で扱う機械と違い、海水との混合という陸上とは異なる環境での使用となっている。このため舶用機関において、環境配慮型潤滑油の使用に伴うメンテナンスの向上や油水(海水)処理方法が近年の課題の一つとなっている。 本研究では舶用機関に特化した新たな潤滑油としてVGPに対応した船舶用環境配慮型潤滑油のゲル化を試みた。 潤滑油をゲル状にすることによって、液体潤滑油に比べ油膜形成が向上し、また漏えいも少なく、液状である海水との油水分離処理も容易になると考えられる。また機械摩擦面との吸着作用が増し、油膜形成状況が向上し、グリースなどと比べても潤滑油として長寿命も確認されている。さらに潤滑油の粘度は潤滑剤として非常に重要な要素となる。従来の液状とは異なり、ゲル状潤滑油は液状よりも粘度は高い。しかし粘度が低くなると油膜形成が低下するため、同ゲル状潤滑油はこれらの心配が低い。このような粘度に関してゲルとして制御することによって粘度を管理することが可能であると考えられる。 本年度は、当該研究者の勤務する練習船弓削丸の潤滑油のゲル化を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
潤滑剤のゲル化に関して、「研究実績の概要」でも記載したように当該研究者が勤務する練習船弓削丸で使用している潤滑剤のゲル化をはじめに試みた。同潤滑剤は環境配慮型の潤滑剤ではない。しかしながら実用性の観点から、はじめに本校練習船で使用している潤滑剤をゲル化することが可能であるか知る必要性があり調べた。 種々の実験から、同潤滑剤の定性的なゲル化はできた。しかしながら定量的なゲル化までには至らず、架橋剤の種類、量及びイオン化剤など様々な設定を変えてゲル化を試みた。それらの結果としてゲル化を得た。現段階では化学ゲルとはならず、物理ゲルのみ得られた。また、同ゲルには温度依存性がありゲル化するが特定温度以上で液化することが明らかとなった。現状では使用する温度が高いところでは液状であり、ゲルとはならない。しかしながら温度状況によってゲル化しているので、ゲル潤滑剤としての一部使用は可能であることは証明できた。 また、本研究費によって購入したフーリエ変換赤外線分光光度計を用いて、分子の構造や官能基の情報をスペクトルから得ることができゲル化の状況を知ることができる。現段階では同機器を用いて明確な情報は得られていない。 これらの状況から環境配慮型潤滑剤のゲル化について、環境配慮型の潤滑剤ではないが当該研究者の勤務する練習船の潤滑剤のゲル化はできたので、「おおむね順調に進展しいる」と初年度として回答してよいと考えた。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度から環境配慮型潤滑油のゲル化を段階的及び促進的に推進させていく。これまでの研究より、飽和合成エステル系潤滑油(HEES)が本研究に適切と思われる。HEESは、生物分解性や毒性に関するヨーロッパのBlue AngelやEUROMARGERITEなどの環境基準を満たしている。ただし、同潤滑油も昨年度ゲル化させた本校練習船弓削丸の潤滑油と同様に市販されているものであり、一般の化学薬品とは違い不純物が多く含まれる。このため単純な化学反応が得られない可能性があり、簡単にゲル化が行えるとは想定していない。これまでの知見を活かし、架橋剤及びイオン化剤を選定をしつつ、定量的に種々試していく予定である。さらにフーリエ変換赤外線分光光度計を用いて、分子の構造や官能基の情報をスペクトルから得ることができ、架橋の状況を知ることによってゲル化の状態をられる。 ゲルの作成に当たっては、共同研究者の池田真吾氏との協力によって行っていく予定である。同氏は、当該研究者と同じ職場であり、密に協議を進めていくことが可能である。それぞれの研究室で試し定期的な審議によってゲル化が進められていく予定である。さらに実用化に向けた実験では海技教育機構海技大学校の佐藤圭司教授の協力のものと進めていく予定である。同施設の内燃実験装置で本ゲル潤滑油が完成した場合、実験用として試験する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初想定していた物品予算とは別に、運搬及び設置に費用が掛かり、予定していた物品(フーリエ変換赤外分光光度計)を購入すると予算のほとんどを充てざるを得なくなった。このため残りの予算でその他のものを購入するには不十分であったため、次年度に充てるようにした。一方、当該研究代表者が本実験に使用した薬品や成果発表の交通費等は、勤務する学校の予算を使用して行った。 したがって、本研究が予算使用計画の変更によって滞ることなく行われ、特別に問題はなかった。
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