海洋環境保全の問題は、世界が取り組まなくてはならない重要課題の一つである。船舶では船尾管や可変ピッチプロペラなど海水と接しているため、潤滑油の微小な流出は日常的に起こっている。アメリカの環境庁が定める船舶入港規制(Vessel General Permit: VGP)では「環境に配慮した潤滑油」の使用を義務づけている。一方、潤滑油は油膜の形成保持が重要である。液体よりも流動性の少ないゲル化が有効である。これまで潤滑油のゲル化に関しては、設楽や大野らを中心に進められてきており、温度による低摩擦性を持ち、液体潤滑油に比べ機械摩擦面との吸着作用が増し、油膜形成状況が向上し、グリースなどと比べても潤滑油として長寿命も報告されている。 本研究では環境配慮型潤滑油ゲルの作製を試みた。また非環境配慮型潤滑油ゲルとともにフーリエ変換赤外分光光度計FTIRを用いて比較検討を行った。環境配慮型潤滑油をゲル化することができた。一方、SEM画像から吸水ゲルとは全く異なるフラクタル形状のような構造が見られた。グリースのSEM画像で見られる増ちょう剤の形状とも大きく異なった。また同ゲル潤滑油は応答速度の速い熱可逆性を有しており、作業環境に適応して働くものと考えられる。また本校弓削丸で使用している非環境配慮型潤滑油をFTIRで測定した結果では、鉱油ベースの単純なスペクトルを示し,C-H伸縮振動とC-H変角振動からオクタンが主な構成物質であることが分かった.環境配慮型潤滑油は複雑な化学合成油であり,スペクトルに多数のピークが表れており特徴的な1750 cm-1付近のピークからC=O伸縮結合が示されていることが分かった.さらに本潤滑油ゲルは温度依存性が見られ,低温度域ではグリース状に固形化された.つまり油の融点を不飽和脂肪酸のように炭素2重結合をコントロールすれば,融点がコントロールできることが示唆された.
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