本研究では,直鎖系の分子構造を持つ燃料だけではなく,芳香族炭化水素もほぼ同等に含まれている舶用燃料を対象にして,燃料物性を利用し,物理化学的な現象面や燃料性状を考慮する液滴蒸発,着火に関する評価モデルを提案,構築することを目的にしている。 本年度は,重質油系の着火モデルの構築と検証を行った。昨年度に,重質油系燃料性状として分析されるレジン,アスファルテンを評価に加えることで重質油系の着火に対応することを検討していたが,より一般的な手法への変更を行い,密度と動粘度での評価に置き換えた。モデル燃料は二成分系を選択し,実験を実施した。燃料は低,中,高沸点の3グループを飽和炭化水素と一,二環芳香族炭化水素から選定し,低,中,高沸点成分間の沸点は100K程度異なる。 これらのモデル燃料の着火性(セタン価)は着火性試験装置(FCA)を用いて求めた。その結果,二成分の混合比を変更した時にCCAI値(重質油規格にある着火性指標)とセタン価は線形に変化すること,燃料成分,混合比を変更した同一CCAI値の燃料はセタン価が異なることが確認でき,このような舶用燃料での特徴を,モデル燃料がCCAI値とセタン価の関係において,再現できていることを検証できた。 また,これまで作成してきた液滴蒸発モデルを用いて,モデル燃料の蒸発特性を計算した結果,モデル燃料内でダンベル型(蒸発率が蒸発初期と後期で二峰性になる)の蒸発特性になる燃料とならない燃料があった。これより,燃焼トラブルの一要因と言われていたダンベル型燃料であっても,同一CCAI値で比較すると必ずしも低セタン価の低着火性燃料にはならないことが明らかになった。 加えて,飽和,芳香族族炭化水素のそれぞれの密度と動粘度を用いて新たに修正したCCAI値の体積平均値を用いることで,これまでのCCAI値よりもセタン価との相関の高い修正指標を提案することができた。
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