研究課題/領域番号 |
18K04596
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
田村 賢 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 講師 (20367832)
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研究分担者 |
佐々木 千鶴 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 准教授 (50452652)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電場印加 / 脂肪酸 / 熱伝達向上 |
研究実績の概要 |
まず,初年度には,2つ1組のステンレス製の円柱形蓄熱体を作製し,円柱端面を対向配置した2つの蓄熱体には,伝熱端面から距離を定めて熱電対を挿入し,それぞれ異なる温度に保った2つのステンレス蓄熱体で脂肪酸を挟み込み,ステンレス蓄熱体に電場を印加したときの非定常伝熱の測定を行えるようになった。また,1組のステンレス蓄熱体における非定常伝熱の数値計算コードを作成し,界面熱伝達係数をフィッティングパラメータとして実測データを再現するようシミュレーションを行い,伝熱界面の油層の熱伝達係数が見積もることができるようになった。これを踏まえて,次年度には,1価の不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸,極性基を持たない炭化水素油を供試して,安定化電源にて電場を印加し,油層を介する熱伝達係数の変化を調べた。無電場状態での熱伝達率が不飽和脂肪酸よりも低い飽和脂肪酸を用いた電場下での熱伝達試験では,数百ボルトの電圧印加により,厚さ0.27mmの油層での熱伝達率が3倍以上も向上することが見出された。そして,当該年度は,電場下における脂肪酸層の熱伝達率が向上するメカニズムを明らかにするために金属蓄熱体(ステンレス)の伝熱面の表面性状(酸化被膜)を変えたものを用意し,印加電圧の極性の違いによる伝熱挙動の変化などを詳細に測定した。熱伝達試験後の供試油中の生成化合物成分について調べた結果,金属石鹸などの明確な含有は認められず,これらは検出限界以下であった。蓄熱体の表面性状が電場下における脂肪酸層の熱伝達率向上挙動を支配していることを明らかにした。また,伝熱界面の脂肪酸層に誘電体繊維から成るシートを挟みこんで熱伝達試験を行ったところ,油層の熱伝達には層内での対流も大きな役割を果していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電場印加による潤滑特性や熱伝達特性の変化は,脂肪酸分子が電場によって金属表面へ配向,吸着・脱離,流動することによると考えられ,それには脂肪酸分子に備わる極性基が大きな役割を果たしているとみられる。電場印加可能な2つ1組のステンレス製の円柱形蓄熱体から成る熱伝達試験装置と実測値を解析し熱伝達係数を評価するために開発した非定常伝熱の数値計算コードによって油層を挟んだ金属体間の熱伝達係数を見積もることができるようになった。1価の不飽和脂肪酸(オレイン酸)と飽和脂肪酸(ラウリン酸),極性基を持たない炭化水素油を供試して,十分な数の試験を繰り返し,信頼性が高い評価結果を積み上げることができた。適切な方向へ安定な電場を印加することにより,金属体に挟まれた脂肪酸油層の熱伝達係数を3倍以上に向上させることができた。金属蓄熱体(ステンレス)の伝熱面の表面性状(酸化被膜)を変えたものを用意し,印加電圧の極性の違いによる伝熱挙動の変化などを詳細に測定した。蓄熱体の表面性状が電場下における脂肪酸層の熱伝達率向上挙動を支配していることを明らかにした。また,伝熱界面の脂肪酸層に脂肪酸分子の移動を抑制するために誘電体繊維から成るシートを挟みこんで熱伝達試験を行ったところ,油層の熱伝達には層内での対流も大きな役割を果していることが分かった。電場印加された蓄熱体間に挟んだ脂肪酸層における熱伝達率向上メカニズムの概要が明らかになってきた。2021年度は,これらの結果を専門誌への投稿論文にまとめて公表し,電場を用いた分子制御技術がもたらすと期待される潤滑性の向上についても前年度までに作製した試験機を用いて詳細な検証を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに2つ1組のステンレス製の円柱形蓄熱体を作製し,それぞれ異なる温度に保った2つの蓄熱体で脂肪酸油層を挟み,蓄熱体に正負の極を固定して電場を印加したときの熱伝達率の変化挙動を調べた。本試験装置の試験データを解析するための非定常伝熱を扱う数値計算コードを作成し,実測データを再現するようシミュレーションを行い,金属体に挟まれた脂肪酸油層の熱伝達係数が評価できるようになった。適切な方向へ安定な電場を印加することにより,脂肪酸油層の熱伝達係数を3倍以上に向上させることができた。金属蓄熱体(ステンレス)の伝熱面の表面性状(酸化被膜)を変えたものを用意し,印加電圧の極性の違いによる伝熱挙動の変化などを詳細に測定した。蓄熱体の表面性状が電場下における脂肪酸層の熱伝達率向上挙動を支配していることを明らかにした。また,伝熱界面の脂肪酸層に誘電体繊維から成るシートを挟みこんで熱伝達試験を行ったところ,油層の熱伝達には層内での対流が大きな役割を果していることが分かった。電場印加された蓄熱体間に挟んだ脂肪酸層における熱伝達率向上の因子が明らかになった。これらの結果を受けて,今後は,伝熱面の表面性状の影響をさらに詳しく調査するために,蓄熱体の金属種を変える,あるいは蓄熱体伝熱面に被覆を施すなどの方向で研究を進め,表面分析の実施を検討しつつ,電場印加による伝熱特性の変化についての知見を深めたい。また,電場による金属面近傍での分子のコントロールということに着目した潤滑性向上技術への展開を模索したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症流行の影響で研究活動に遅延が生じたため
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