研究課題/領域番号 |
18K04603
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研究機関 | 上越教育大学 |
研究代表者 |
吉田 昌幸 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (90533513)
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研究分担者 |
小林 重人 札幌市立大学, デザイン学部, 准教授 (20610059)
宮崎 義久 仙台高等専門学校, 総合工学科, 助教 (60633831)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 地域通貨 / デジタル通貨 / 電子通貨 / メディアとしての通貨 / ゲーミング・シミュレーション / 質問紙調査 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度実施した質問紙調査の分析とゲーミング・シミュレーションの実施と結果分析を行った。 質問紙調査の分析を通じて、(1)日本の地域通貨発行組織が重視する理念を、経済環境の充実(新たな金融システムの構築、地域経済の活性化)と社会環境の充実(地域住民の関係性の再構築、地域の文化や生活環境の改善、環境、社会的弱者の支援)の二軸で評価できることが明らかになった。また、(2)これらの評価軸に基づいて地域通貨発行組織を4つのクラスタに分類することができ、それぞれのクラスタに応じて自らの地域通貨流通圏に対する評価が異なることもわかった。これら4つのクラスタによってデジタルやアナログといった発行形態の違いは見られなかったが、(3)デジタル通貨を発行する組織の方がアナログ通貨を発行する組織よりも経済環境の充実を理念として重視しており、公正で効率的な取引をもたらす流通圏を形成しているとの評価がみられた。このように、地域通貨発行組織が重視する理念は流通圏に対する直接的な影響をもたらすことが示された一方で、発行形態が重視する理念に一定の影響をもたらしていることが示された。 一方、一定の環境下で異なる形態の地域通貨を利用する者がそれぞれの地域通貨をどのように利用し、評価するのかを分析することを狙いとしてゲーミング・シミュレーションの実施・分析を行った。参加者はゲーム体験を通じて、デジタル地域通貨の方が利便性や地域経済への貢献があるものとしてアナログ地域通貨よりも高く評価した一方、デジタル地域通貨を経済的な効果を持つものとして、アナログ地域通貨をコミュニティのつながりを強めるものとしてそれぞれ評価したことがわかった。 今後、これら発行者側と利用者側の結果を突き合わせることによって、アナログやデジタルの地域通貨がどのような価値を重視した流通圏として成長していくのかについて検討していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は「地域・補完通貨や仮想通貨を使うことで重視するようになる価値・関心・倫理は何か」を解明することを目的としている。昨年度と本年度の研究では、地域・補完通貨(以下地域通貨)の研究に焦点を当てたため、仮想通貨(暗号通貨)それ自体に対しては調査を行うことができていない。しかし、デジタル地域通貨の中にも近年ブロックチェーンを活用する事例も出てきており、地域通貨という共通の枠組みの中でアナログとデジタルといった形態の違いに着目した方がより実りのある研究ができると判断した。このような観点から本年度の進捗を見てみると、以下のようにおおむね順調に進展したと評価できる。 第1に、昨年度実施した質問紙調査の分析からは、地域通貨の発行者が地域通貨をどのような価値を実現するメディアとして発行しようとしているのか、そしてそこにアナログやデジタルといった発行形態が影響を与えていることが見られた。 第2に、ゲーミング・シミュレーションの分析からは、地域通貨の利用者がアナログとデジタルそれぞれに対して異なる効果を持つものとして評価し、特にデジタル地域通貨に対してはその利便性や経済的効果を高く評価していることが明らかとなった。 第3に、これらの分析結果について、地域通貨の国際学会であるResearch Association on Monetary Innovation and Community and Complementary Currency Systems 隔年大会 と国際的なゲーミングとシミュレーションの学会であるThe International Simulation and Gaming Association年次大会という2つの国際学会での報告を通じて示され、関連する研究が論文として出版された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、これまでアナログやデジタルといった異なる形態の地域通貨を発行する組織とそれらの利用者が、それぞれ重視・評価する視点を質問紙やゲーミング・シミュレーションといった複合的な手法を用いて明らかにしてきた。最終年度は、「地域・補完通貨や仮想通貨が持続的に活用される条件の解明」を課題としている。上述したように、本研究では、その実態が未だつかみ切れていない仮想通貨の発行組織や利用者に対しての調査から、ブロックチェーンなどの技術を活用したデジタル地域通貨とこれまでのアナログ地域通貨の発行組織や利用者の行動・評価へと調査対象を限定して調査・分析を行ってきた。したがって、最終年度はアナログやデジタルといった形態の異なる地域通貨が持続的に活用される条件の解明が課題となる。 具体的には、デジタル地域通貨とアナログ地域通貨それぞれで、発行者側の重視する理念と利用者側が評価する側面とがマッチする条件に関して、これまで行ってきた質問紙調査とゲーミング・シミュレーションの結果分析をもとにして仮説を立てる。そして、地域通貨発行組織の代表的事例調査を通じて仮説を検証する予定である。この方法に関しては、地域通貨を発行している組織や利用者へのインタビュー調査を伴うため、covid-19による移動規制等が解除された後に行わなけらばならないという問題がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生した理由は、2020年1-3月の間に行う予定であった研究会議や参加予定学会の中止や延期があったためである。これらの金額は次年度において延期された学会参加や研究会議、調査旅費として活用予定である。
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