研究課題/領域番号 |
18K04608
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
斎藤 勝彦 神戸大学, 海事科学研究科, 教授 (70195981)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 宅配便 / 荷扱い / 包装 / 落下試験 / 衝撃加速度 / 落下高さ換算 |
研究実績の概要 |
ネット通販でみられる代表的な大きさのダミー包装物を設計・製作し、ケアマークの有無の条件が、荷扱いの荒さ(丁寧さ)すなわち:落下方向別の落下高さにどのように影響するのかを、実際の宅配輸送データ計測を通じて明らかにした。このとき各パラメータの影響を明確にするために複数のダミー包装物を同時に多数回の宅配便実輸送する必要があり、ダミー包装物の製作と輸送環境記録計2台(1台現有、1台購入)が必要であった。ここでの落下高さ解析は既存の方法によって行い、解析結果を比較することで解析法の信頼性について評価した。 回転運動など遠心加速度が混在する加速度波形から落下の波形を同定することが現状では困難である。そのため、現状のフリーフォール解析法では、宅配便など複雑な落下を想定される場面では、精確に落下高さを換算することができないことを明らかにした。 ケアマークの有無の影響についての検討事例は、海外でもいくつか報告されており、いずれもケアマークによる影響はほとんどないと結論付けられている。また、日本国内の事例については20年以上も前の報告があるのみで、今回新たに計測を行った。その結果、宅配便輸送される包装物に貼付するケアマークは、荷扱いレベルへの影響はあまりないという結果になった。 また、現在の包装貨物落下試験高さ決定方法は、何回・何個までの輸送に対してならば包装内容品が破損しないのかということを保障することはできないことを明確に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
輸送環境調査で計測した加速度を落下高さに換算する方法について、宅配便輸送環境計測結果を用いながら検討した。包装物が自由落下(Free Fall)している間は3軸合成加速度が重力加速度と等しくなるために、その時間 より落下高さ が換算される(FF法)。 小口貨物の輸送中に起こっていると思われる落下を模擬した水平投げ落下試験によれば、回転を伴うような複雑な落下挙動において、精確な落下高さを換算することができないことが分った。またダミー包装物を用いた宅配便往復輸送試験により得た計測結果からFF法で落下高さ値を換算したところ、合成ピーク加速度と速度変化が同程度であってもFF法により算出された落下高さが大きく異なっている場合が多いことを明確にした。以上のように、宅配便輸送で計測された衝撃波形は大変複雑であり、FF法による落下高さ換算が困難であることを証明した。 ワレモノシールなし(品目名:プラスチック容器)とワレモノシール5枚(品目名:精密機器)を貼付した貨物をそれぞれ別々に神戸-つくば間の往復実輸送計測を行った。この計測で得られた合成加速度時系列データと自由落下試験の結果から各落下方向の落下高さを算出した。ワレモノシールの有無によってダミー包装物の落下高さに有意差があるのかどうかをT検定により判定した。特に落下衝撃回数が多かった底面落下での落下高さ-累積確率によれば、包装内容物に影響がある落下高さ30cm以上の累積確率がほぼ等しく、ワレモノシールの効果が確認できないことが明らかになった。また、T検定によればすべての落下方向について、シールの効果は明確に確認できず、ワレモノシールの有無によって宅配作業者の荷扱いにほとんど差はないことが検証できた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、様々な落下姿勢でのダミー包装物に作用する加速度計測を実験室レベルで実施する。使用する機材は、現有の自由落下試験装置および等価落下試験が可能な衝撃試験装置である。さらに輸送現場で想定される複雑な落下挙動(手投げや回転落下など)についても検討項目に加える。つまり複雑な落下挙動を機械的に再現性のある手法についても検討する必要がある。 室内実験では落下姿勢と落下高さは明確であり、加速度計測により既存の手法で計測・解析された結果との比較によって、既存計測・解析法を用いた落下高さ解析の定量的な誤差評価を行う。続いて、本研究課題の主要な内容である、新しい落下高さ計測・解析法の開発を、室内実験結果を有効に活用しながら進め、現状の輸送環境記録計解析ソフトウェアに実装するアルゴリズムを作成するための基盤手法を確立する。ここでは、輸送環境計測で計測する加速度センサーの種類や計測設定条件および解析条件等についても詳細な検討を含むこととする。 さらに、前年度に計測した加速データを新しく開発した基盤解析アルゴリズムを用いて落下高さ解析を再度実施することにより、適正な包装を実施するための前提条件としての高精度な落下姿勢と高さが明確になる。 上記のような検討をしつつ、ここまでに明らかになった研究経過・成果を国内の学会および研究会等において発表し、関連研究者との情報交換によって最終年度の研究プロジェクトへ向かうための方向性を明確に確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ダミー包装物の緩衝材として、使い切る予定であったが、見込み額よりも若干安く購入することが出来た。残額が小額であり、研究遂行上どうしても必要な消耗品もなかったことから、繰り越すこととした。次年度配分予算とあわせて、消耗品(緩衝材や段ボール箱)の購入分に補填する計画である。
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